新型コロナ感染拡大の自動車市場への影響実態調査 経済・移動・自動車価値観をめぐる消費者の変化

(株)三菱総合研究所 経営イノベーション本部 小河絵里香
野呂義久

■コロナ影響が継続した2021年度概観

国内で新型コロナウイルスの感染が拡大してから2年目となる2021年度は、感染者数・死者数ともに多く、新型コロナウイルスの影響が継続した1年でした。
新型コロナウイルスによる自動車市場への影響として、消費者の経済状況悪化や行動自粛による移動の減少で自動車需要が押し下げられる可能性が挙げられます。実際、感染拡大し始めた初期の2020年5月の新車販売台数は前年の5月に比べ45%減少し、深刻な影響が危惧されました。2021年度も対前年度比で9%減、1976年度以来45年ぶりの低い水準であり、新型コロナウイルスによる自動車市場への影響が懸念されています。
こうした状況を受け、日本自動車工業会では2021年度に4回の消費者アンケートを実施し、コロナ禍において自動車市場に何が起きているかを明らかにすることを試みました。具体的には、収入や貯蓄といった経済状況、生活・移動(外出・車の使い方)、自動車に対するイメージ、自動車の購入意向などの点について、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年時点と比較した変化を調査しました。
調査結果では、コロナ禍は自動車市場に対してマイナスの影響ばかりでなく、プラスの影響があるという実態が見えてきました。感染拡大が始まった当初から、いわゆる密を避ける感染対策という点で公共交通よりも自動車が使われるようになるのではないかという見方はありましたが、今回の調査では、感染対策にとどまらない自動車の価値を消費者が再評価していることが分かりました。また、その自動車の価値の再評価が、「自動車を買いたいと思う気持ち」を向上させていることが明らかとなりました。
なおアンケート調査は4回行いましたが、おおよそ同じ結果でした。2021年度は1年を通じて経済状況、生活などへのコロナ禍の影響に大きな変化がなかったといえます。そのため以下では、全4回分をまとめた調査分析を紹介します。

■コロナ禍で経済状況は悪化、外出は減少の傾向

コロナ禍では、特に飲食業や宿泊業をはじめとするいくつかの業種で経済的なダメージを受けています。今回のアンケート調査結果でも、収入、貯蓄が「減った」とする割合はともに約30%であり、コロナ禍で経済状況が悪化していることが分かります。
それに伴い、自動車にかかる経済負担が大きくなったと感じる人の割合は24%(小さくなったと感じる人の割合はわずか1%)であり、自動車を購入し保有するための経済的な負担を感じる度合いが大きくなった消費者が増えています。
外出頻度については、2021年度はワクチン接種が進んだことや、11月頃には感染状況が収まっていたことなど、外出増加に寄与する点も見られましたが、2019年度と比べて減少した割合(13%)の方が、増加した割合(7%)よりも多いという結果でした。特に、年間を通じて緊急事態宣言やまん延防止などの発令があったこと、テレワークの普及が進んだことなどで、趣味・レジャー・旅行や通勤・通学での外出頻度の減少が見られました。
これらの変化は、いずれも自動車の購入・保有・利用を減少させるものであり、コロナ禍が新車販売を減少させている要因のひとつであると考えられます。

■一方で、自動車を買いたいと思う気持ちは増加傾向に

しかし、今回のアンケート調査結果を見ると、「2019年度時点では自動車を買う予定がなかったものの、現在は買いたいと考えている(もしくはコロナ下で既に購入した)」という割合が35%と高い水準です。これは、その反対の「2019年度時点にはいずれ自動車を買う予定だったが、やめた」とする割合の2%よりも非常に高いといえます。車を買うタイミングについても、「元々予定していた時期よりも早い時期に購入しようと考えている」割合が43%、「当初の予定よりも遅い時期に購入しようと考えている」という割合が14%となっており、自動車の買替サイクルが短期化する動きが見られます。このように、コロナ下の自動車市場では新車販売が減少しているのとは逆の動きとして、消費者の購入意向はむしろ活性化しているという実態が明らかとなりました。
先ほど見たように通勤や外出などの移動は全般に減っていますが、自動車での移動については、減っている人が12%に対して、増えている人も12%という結果になっています。移動目的として遠出の旅行などが減っていることもあり、自動車利用が減った人は見られますが、一方、コロナ禍で公共交通での移動が大きく減る中で、自動車の利用を増やした人も少なくなかったことを意味しています。

 

■自動車購入意向が増加した背景は、自動車へのイメージの変化

コロナ禍において、公共交通の利用を控えて自動車を利用するようになっているという変化も、自動車に対するイメージがポジティブに変化していることに影響している可能性があります。今回の調査では、自動車に対するイメージについて『自動車に対する感覚的イメージ(楽しい/つまらない、格好良い/格好悪い、できるだけ使いたい/使いたくない、安全/危険、安心/不安)』、『自動車の利便性・必要性イメージ(便利/不便、必要不可欠/必要ない)』という観点で調査を行いました。

その結果、自動車に対する感覚的イメージは、良いイメージを持つようになった26%、悪いイメージを持つようになった12%、自動車の利便性・必要性イメージは良いイメージを持つようになった43%、悪いイメージを持つようになった3%と、いずれも良いイメージが大きく上昇していることが分かりました。

 

なお、構成要素ごとに見ると、特に「楽しい」「格好良い」「便利」「必要不可欠」といった点で自動車のイメージがよくなっています。特に「楽しい」「格好良い」などの点が上昇していることは、コロナ感染対策にとどまらない自動車の価値の再認識が起こっていることが分かります。

また、「買いたいと思うようになった気持ち」の背景要因を分析したところ、経済状況や移動頻度との相関は低く、自動車に対するイメージの変化との相関が高いということが分かりました。コロナ前では、自動車の需要に影響する要因として経済や移動の状況を考えるのが一般的でしたが、今回の調査では経済や移動の変化よりも自動車に対するイメージが需要に影響していることを意味しており、コロナ下での自動車市場の特徴であると言えます。
中でも、コロナ禍で密を避けて移動できるなどの観点で、「必要不可欠」「便利」「楽しい」「格好良い」「できるだけ使いたい」と感じている人ほど、買いたいと思う気持ちが向上していました。さらに、自動車のイメージのポジティブな変化は自動車を保有している人ほど顕著です。
自動車に対するイメージが良くなっている理由を今回の調査では明らかにしきれていませんが、コロナ禍で自動車を使う機会が増え、改めて自動車の価値を意識するようになった可能性が指摘できます。

ただし、自動車を持っていない人では自動車に対するイメージの上昇は小さく、今後、いかに車の良さを知ってもらうかは検討の余地があります。また、自動車は経済的に負担なものだと感じる人が保有者・非保有者ともに増えているという点を考えると、消費者は自動車の購入・保有に関わるコストの低減を求めていると見ることもできます。コロナ前はカーシェアなどの普及により「保有から利用へ」という動きが注目されていましたが、今回の調査では「保有すること」が再評価されている動きが見られたことからも、この点はより重要なポイントとなる可能性があります。

■消費者の意向と市場の動きの乖離は供給制約が原因

ここまで見てきたように、消費者の視点では、自動車ニーズはむしろ強くなっているといえます。その一方、足元では、半導体不足などにより自動車生産が制約される状況が生じており、新車の納期が長くなっています。
今回のアンケート調査では、車の納期が遅れる場合に消費者がどのような対応をするかについても尋ねていますが、納期が6か月かかる場合には、28%が購入を延期する(見送る)もしくは中古車に変更するという回答でした。この結果からも、供給が追い付いていないことが新車販売台数を押し下げており、自動車業界にとって大きな課題となりつつあることが分かります。
半導体不足やサプライチェーンの再構築などについての取り組みとしては、政府が「半導体・デジタル産業戦略検討会議」を新設するなど、官民を挙げて解決に向けて取り組んでいます。自動車市場の回復・活性化に向け、自動車生産の回復が待たれる状況といえます。

■調査実施概要

調査方法:インターネットアンケート調査
調査対象者:自動車保有世帯および自動車非保有世帯(いずれも運転免許保有者に限る)