- 2022/08/05
- JAMAGAZINE, SDGs, 福祉車両
すべての人々に自由な移動を届ける福祉車両の取り組み
日本の人口の3割近くを65歳以上の高齢者がしめています。団塊の世代が全員後期高齢者となる2025年以降、車いす利用者の大幅な増加が想定されています。このような状況下で、すべての人々が自由に移動しやすい環境の整備が急がれ、自動車メーカー各社も従来にも増して福祉車両の開発に力を注いでいます。
福祉車両は大きく身体の不自由な方の介護や送迎に利用する「介護式」と身体の不自由な方がご自分で運転するための補助装置を付けた「自操式」に分けられます。さらに介護式車両は回転(スライド・チルト)シート車、昇降シート車、車いす移動車自操式車両は手動・足動装置などのタイプにわかれます。また、公共交通機関向けとして車内に段差がなく、車いすごと乗り込めるノンステップバスなども福祉車両に含まれます。どれも通常の車両をベースに乗り降りをスムーズにしたり、車いすを固定、収容したりする装置などが取り付られています。
また、車いす利用者が福祉車両をより使いやすくするために、メーカーの垣根を超えた動きも進んでいます。2022年4月21日に、国内の車いすや車いす移動車、バスのメーカー12社が協力した「車椅子簡易固定標準化コンソーシアム」 が設立されました。経済産業省が推進する「車椅子の自動車等へのワンタッチ固定機器に関する国際標準化」事業と連携し、ISO(国際標準化機構)に提案予定の「車椅子の車両における簡易固定システム」の浸透、普及を担います。幹事社はトヨタ自動車、本田技研工業、スズキ、日産モータースポーツ&カスタマイズ(旧オーテックジャパン)と、車いすメーカーの日進医療器と松永製作所の計6社で、事務局はダイハツ工業が担当します。このほかいすゞ自動車、日野自動車、ジェイ・バスのほか、車いすメーカーのカワムラサイクルとミキもメンバー社になっています。コンソーシアムでの活動により、車いす利用者が従来以上に安心してスムーズに乗降できる車いす移動車の普及が期待されています。
自動車メーカー各社は、介護を必要とされる方々、介護する側の双方が使いやすく、介護の負担が軽減される、軽自動車から大型車までの幅広い福祉車両を開発してきました。また、販売面でも福祉車両を常設する店舗を増やすなどの取り組みにより、年間4万台を超える福祉車両が販売されています。すべての人々に移動の自由を提供することは、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを支援することになります。
トヨタは、福祉車両は障がいを持たれた方が外出するために改造した特別な車ではなく、誰もが使いやすい「普通のクルマ化」という考えで、福祉目的以外でも使いやすい車とする開発に取り組んでいます。例えばミニバン「ノア」の後席が外に出てくるサイドリフトアップチルトシートの開発では、従来、車両の横に1.1~1.2mのスペースがないと使えませんでしたが、現在のミニバンでは55cmのスペースがあれば使用できるようにしました。車両から座席の出る部分を少なくし、座っている人が立ち上がりやすくなっただけでなく、雨の日も濡れにくいようになりました。
高齢者の増加により、介護される側もする側も高齢者のいわゆる「老老介護」のケースも増えており、誰もが使いやすくすることは重要です。ダイハツでは軽自動車「タント」の昇降シートや回転シート仕様車に車いすクレーンを設定し、車いす収容の負担軽減を図りました。また、普段使いでの使い勝手向上のため、車いす移動車の「タントスローパー」に続き「ハイゼットスローパー」「アトレースローパー」にも車いす用のスロープに前倒し機構を採用しました。
こうした福祉車両は自動車メーカーなどが展開する多くの店舗でも実車を確認することができます。ただ、コロナ禍においては外出をためらう方も多いのが実情です。そこで、日産自動車では関連会社の日産モータースポーツ&カスタマイズにおいて福祉車両の個別オンライン相談会を開催し、福祉車両選びのお手伝いをしています。
公共交通機関における福祉車両もユニバーサルデザインや交通バリアフリーの考えのもと、大きく進化を遂げています。路線バスの床面を超低床化して乗降ステップをなくしたノンステップバスの普及が進んでいますが、三菱ふそうトラック・バスでは大型観光バス「エアロエース」に量産型として世界初の車いす乗降用エレベーター機能を設定し、空港リムジンに用いられています。車いす利用者が雨の日も濡れずに車いすに乗ったまま乗降できるようになりました。