未来のエンジニアが熱戦。学生フォーミュラが3年ぶりリアル開催

学生たちが自らフォーミュラカーを製作し性能を競うのが、公益社団法人自動車技術会(自技会)が主催する「学生フォーミュラ」です。20回目を迎えた今回の「学生フォーミュラ日本大会2022」は9月6日から10日までの5日間、静岡県袋井市の静岡県小笠山総合運動公園(エコパ)で開かれました。今年は3年ぶりにリアルでの開催が実現。コロナ禍による開発の難航、さらに大会期間中の大雨や猛暑も相まって過酷な状況下での大会となりましたが、会場には学生たちの笑顔と涙が輝いていました。

学生フォーミュラは、将来の自動車産業を支えるエンジニアを育てることを目的に2003年に始まりました。学生自身がフォーミュラスタイルの小型レーシングカーの設計や開発、製作まで一貫して行い、ものづくりの総合力を競います。ガソリンエンジンの「ICVクラス」と電気自動車の「EVクラス」があり、歴史あるICVクラスでの参加が中心となっていますが、EVクラスへのエントリーも年々増えています。

審査項目は、車両のコンセプトや設計、デザイン、コスト、生産性、作品のプレゼンテーションスキルなどを競う「静的審査」と、加速やコーナリングなどの車両性能に加えて、車両の信頼性や耐久性を競う「動的審査」で、この2つの総合点を競います。また、動的審査前には「車検」もあり、ルールで定められた安全性や動作、排気音、絶縁性などの検査を通過する必要があります。

各チームがオリジナリティあふれるマシンを開発

今年は静的審査の大半がオンラインで、デザインの最終審査と動的審査がエコパで開かれました。エントリーした69チームのうちEV(電気自動車)クラスは過去最多となる14チームが集まりました。しかし各チームとも開発が難航し、約20キロメートル走行する「エンデュランス」に進出したのは2チームと厳しい戦いとなりました。

またICVクラスでも、コロナ禍の2年半の間にノウハウを持つ先輩が卒業してしまい、技術伝承が上手くいかないといった問題に各チームが悩まされました。学年ごとの登校制限などにより開発は思うように進まず、大会で初めて全メンバーが顔を合わせたというチームもありました。

大会期間中は天候にも悩まされました。初日は大雨、最終日は気温が30度を超す炎天下と、刻々と変化しました。上位6チームによるクライマックスの「ファイナル6」でも、走行中に停止したり、エンジンが再始動しないといったトラブルが相次ぎ、まさにサバイバルレースの様相を呈しました。

大会最終日は強い日差しが降り注いだ。各チームが祈るようにマシンを見守った

そんな過酷な状況下、総合優勝に輝いたのは京都工芸繊維大学です。動的審査では開発コンセプトに掲げた軽さと旋回性能の高さを武器にトップタイムをマーク。さらに静的審査でも各部門で優れた成績を収める完勝でした。

優勝した京都工芸繊維大学。動的・静的審査ともに圧勝した

京都工芸繊維大学のチームリーダー、3年生の吉田健悟さんは2019年に完走できなかった悔しさをバネに組織作りと開発に取り組んできたといい、「信頼性向上など、まだポテンシャルを引き出せる」と連覇に挑む後輩たちにエールを送ります。一方で早くも対抗意識に燃えるライバルチームもあり、来年の大会の盛り上がりが期待できそうです。

自動車技術会は「今年は何としても開催したい」と強い気持ちで主催したと言います。水谷泰哲実行委員長は「出場した経験や反省点を大切に、後輩に伝承してほしい」と参加チームを激励しました。今後は、感染対策などで叶わなかった海外チームの受け入れや、2025年に参戦チームの半数をEVクラスにする目標に向けて、参加者への支援も実施していくと言います。

学生フォーミュラには、企画から設計、生産、コスト管理、プレゼン能力、そして商品力と、自動車の開発に求められるさまざまなスキルが凝縮されています。実際に過去に参加した卒業生の多くが自動車産業を中心に活躍しています。人財獲得の競争が激化する中、日本のものづくりを支える学生フォーミュラへの注目は、今後も一層高まりそうです。

独自の工夫が凝らされたマシンに日本のものづくりを支える人財への期待が膨らむ