組織変革でスピードと柔軟性が増した自工会 2023年度はGXやジャパンモビリティショーなど4つの重点テーマに取り組む

一般社団法人日本自動車工業会(自工会)は、日本の自動車産業の基盤確立を目的に、戦後間もない1948年に設立された「自動車工業会」と「日本小型自動車工業会」を前身とします。67年にこの二つの工業会が合併し、現在の自工会になりました。2020年10月には、設立以来となる大幅な組織変革に踏み切り、〝新生自工会〟として、時代に合わせた組織へと生まれ変わりました。自工会とはどのような組織なのか、自動車業界が100年に一度と言われる変革期にある中、どのような活動に力を入れているのか、総合政策領域長兼カーボンニュートラル担当の岡紳一郎参与とともに紹介します。

自工会の岡紳一郎参与・総合政策領域長兼カーボンニュートラル担当

自工会の役割は、自動車業界共通の課題に取り組むことです。各種統計・調査、環境・安全技術、サプライチェーン、国際関係など事業は多岐にわたります。2002年に自動車工業振興会と統合してからは、東京モーターショーの開催も主要な事業の一つとなりました。日本がモータリゼーションの時代を経て、やがて世界に活躍の場を広げていった自動車産業の歴史とともに、自工会の活動内容も広がっていきました。

20年の組織変革のきっかけになったのは、16年頃から世界の自動車業界に急速に広がった技術革新の波です。「つながる車(コネクテッド)」「自動運転(オートノマス)」「共同利用(シェアード)」、「電動化(エレクトリック)」の頭文字をとって「CASE(ケース)」と名付けられた変革の動きは、自動車を大きく変えようとしています。日本を含む各国・地域政府がカーボンニュートラルの目標を相次いで掲げ始めた20年以降、この流れが一段と加速しており、オールジャパンで結束を高めているところです。

■自工会設立以来の組織変革

激変する自動車業界の課題に対応しようと、豊田章男会長のリーダーシップの下、自工会が組織変革に動き始めたのは20年3月でした。各事業を推進する委員会の組織を従来の12委員会・55部会から5委員会・30部会(車種別委員会、モーターショー委員会・部会は除く)に集約するとともに、理事会と委員会の間にあった常任委員会は「総合政策委員会」に名称を変え、他の委員会と同列の位置付けにし、意思決定を迅速化しました。

委員会組織の見直しに合わせ、事務局も6統括部・3室から4領域に変更しました。これらは「自動車そのものが急速に変化していく中、自工会の役割も変化していかねばならないのではないか」という豊田会長の強い思いの下で行われた変革です。岡参与は、変革から2年を経た今、「迅速にものごとを議論し、判断して決めていける態勢になっている」と、その効果を実感していると言います。

例えば、月に一度の委員長連絡会によって横の連携が強まり、情報共有も進みました。総合政策委員会の中につくった事業評価部会が、各委員会の事業を第三者的に評価する仕組みを構築したことも大きな成果でした。会議時間の短縮やペーパーレス化のみならず、パブリックコメントへの迅速な意見発信など、目に見える形で変革の成果が表れています。事務局としても「新たな価値を創造するモビリティ社会の実現、および戦略産業としての更なる進化に向けた政策立案と実行に貢献する」というミッションを初めて掲げ、新設の「次世代モビリティ領域」を含む4領域へと組織を大括り化したことによって、「環境や業務の変化に柔軟に対応できる体制」(岡参与)となりました。

■23年度の4つの重点課題

変化のスピードがますます速まる自動車産業の中で、自工会は4つの重点テーマを据えており、23年度もその取り組みを強化していきます。

1つ目は、「競争力強化と税制」です。「日本の自動車産業の競争力を再構築しなければならない」という豊田会長の問題意識のもと、自動車の枠を超えた税制の抜本改革を目指すものです。岡参与は、「モビリティを軸とした骨太な産業戦略につながるような議論を加速していきたい」と話します。カーボンニュートラルへの対応に向けた電動化や将来のモビリティ社会にふさわしい税制を検討し、経団連や政府につなげていきます。

2つ目は「GX」(グリーントランスフォーメーション)です。自工会では、自動車の脱炭素の手段は一つではないことをいろいろな場で主張してきました。その主張を裏付ける形になったのが、日本エネルギー経済研究所( IEEJ )に分析を委託し22年9月に公表した「2050年カーボンニュートラルシナリオ」です。世界全体の道路交通の二酸化炭素(CO)排出削減は、BEV(電気自動車)化を急速に進めるシナリオだけでなく、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)とカーボンニュートラル燃料を活用するシナリオでも、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「2050年1.5度シナリオ」に整合的になりうることがこの分析で証明されました。

自工会では、この分析結果を踏まえ、OICA(国際自動車工業連合会)の会合や、アジアなどでの官民会議の場で自工会の考え方を説明しています。23年4月には札幌でG7気候・エネルギー・環境大臣会合、5月には、広島でG7サミット(主要7カ国会議)が開かれます。自工会としては、こうした会議の開催を踏まえ、自動車の脱炭素には多様な選択肢があることへの理解を広げていきます。岡参与は、「経団連のモビリティ委員会を通じて、エネルギーを『つくる・運ぶ』業界にも仲間になってもらい、自動車がペースメーカーとなって理解活動を牽引したい」と話します。

3つ目は「DX・MaaS」(デジタルトランスフォーメーション、モビリティ・アズ・ア・サービス)です。ここではまず、交通事故死者ゼロに向けた取り組みを展開しています。23年度は人・クルマ・交通環境が三位一体となって安全を確保していくための「アクションプラン」づくりを進めます。また、交通弱者やドライバー不足も考慮し、自動運転を活用したモビリティサービスの社会実装に向けた課題解決にも取り組んでいきます。

データのトレーサビリティーに関わるデジタルプラットフォームにも目を向けていきます。欧州では、自動車産業のサプライチェーン間でデータをやりとりするためのプラットフォームづくりが始まっています。こうした動きへの日本の対応の在り方を検討していきます。

4つ目が「ファンづくり」です。今年は「東京モーターショー」を「ジャパンモビリティショー」に一新して開催する初めての年です。他産業やスタートアップ企業にも参加してもらい、オールジャパンで未来の日本をお客さまに体感してもらえる場にします。来場者100万人を目標に、「バーチャルとリアルを融合し、クルマやバイク好きの方はもちろんですが、どのような方にも楽しいと感じていただけるショーにしたい」(岡参与)と考えています。

■大きな課題はカーボンニュートラル

岡参与は、「世界の自動車産業が抱えるいくつかの課題の中でも、特に大きいものの一つが、カーボンニュートラルへの対応」と言います。自動車の環境性能は、将来的に車からの排出だけでなく、製造時を含めたCO排出量で評価される流れにあります。そうなれば、電源構成に占める化石燃料の割合が高い電力で製造した車は環境性能が低いとみなされ、競争力が低下するおそれがあります。日本の自動車産業は国内生産の約半分を輸出しています。日本における再生可能エネルギーの普及スピードは、日本の自動車産業にとっても重要であり、これは雇用やサプライチェーンにも影響を及ぼす可能性があります。

欧州などに比べ、電源構成に占める再エネの比率が低い国・地域では、「BEVの追求だけでなく、液体燃料の脱炭素化を含めた、あらゆる技術を総動員していくことがカーボンニュートラルへの近道になる」と岡参与は話します。東南アジアなど、日本と同じような状況にある国々も、こうした自工会の考え方に理解を示し始めていると言います。

日本が目指す50年のカーボンニュートラル達成に向け、メーカー各社はお客様に選んでいただける車づくりを目指していますが、自動車ユーザーのみなさまにも参加いただけることがあります。それは、一人ひとりがエコドライブの意識をさらに高めることです。「温暖化対策を自分のための事として考え、今やれることをみんなでやること」(岡参与)が、明日のCOの削減につながります。ユーザーのみなさまのエコドライブに対する意欲を、いかにカーボンニュートラルへとかき立てていくことができるのかもこれからの課題だと考えています。

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自工会とは(自工会公式サイト)