大変革期の中のトラック業界

自工会広報誌「JAMAGAZINE」3月号よりピックアップ

モノの輸送を通じて日々の生活を支えているトラック業界でも、100年に1度の大変革期を迎えています。慢性的なドライバー不足やカーボンニュートラルへの対応など、課題は山積しています。これに対して大型車メーカーでは自動運転技術や電動車両などの開発に加えて、運送事業者や荷主など異業種連携によるコネクテッド技術を活用した物流の効率化などに取り組むことで、トラック業界の課題解決を加速させています。

トラックは生活を支える社会インフラ。新体制では「圧倒的な当事者意識」で議論

トラックを活用した運送事業は、鉄道や海運、航空などを含めた物流事業の中で、市場規模(営業収入)では国内物流の6割、輸送量では国内貨物輸送量の9割を占めています。まさにトラック輸送は日本国民の生活やさまざまな産業を支えているといえます。
自工会の副会長を務める片山正則(いすゞ自動車社長)も「トラックは生活を支える社会インフラの一部です」といいます。同時に「トラックが社会的責任をしっかりと果たしていくために、大型車メーカーでは『圧倒的な当事者意識』と『社会課題解決に向けた協調』の意識を持って議論を重ねています」と自工会が新体制として積極的な活動を進める理由を説明します。

カーボンニュートラルの実現には業界ならではの課題も

カーボンニュートラルの観点から見ても、トラックへの取り組みは非常に重要となります。国内の二酸化炭素(CO)排出量において、運輸部門で自動車が排出するCOの割合(2018年度)は、乗用車が58%、トラックなど貨物車が40%となっています。ただ、貨物車の保有台数は2割弱程度であり、走行距離が多く燃費性能の厳しいトラックはいかに1台あたりのCO排出量削減の影響が大きいことがわかります。
ただ、トラックのカーボンニュートラルは乗用車とは事情が異なります。副会長の片山は「配送用として走る車両や、消防車や建設作業車など現場で停まったまま働く車両があるように、商用車は使われ方や大きさが多岐にわたります。この多様性にどう応えていくかという根本的な問題を抱えています。何か一つの技術に特定されるということではなく、用途や状況の違いに応じて、いろいろな技術をうまく使っていくことが必要です」とトラックならではの難しさを説明します。
また、商用車は社会のインフラですが、輸送を支えるトラック運送事業者の9割以上は中小零細の事業者であり、カーボンニュートラルを進めるためには運送事業者が事業として成立するためのコスト面での対策が不可欠となります。これについて副会長の片山は「商用車のカーボンニュートラル実現は車体の電動化というだけでは成立せず、架装メーカーなどのビジネスパートナーと業界の枠を超えた形で選択肢の多様性に取り組まないと実現は難しい」と述べます。

トラックメーカー各社がEVを市場投入

このように厳しい環境が取り巻く中で、大型車メーカーは、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の領域での技術開発に力を入れています。
トラックのカーボンニュートラルでは、大手運送事業者などと連携して電気自動車(EV)の導入を積極的に進めています。例えばヤマト運輸は、いすゞ自動車の電気トラック「エルフ EVウォークスルーバン」のモニター稼働を開始したほか、2021年11月には日野自動車の電気トラック「日野デュトロ Z EV」を使用した集配業務の実証実験も始めています。ファミリーマートもいすゞ自動車が開発したバッテリー交換式の電気小型トラック「エルフ EV」を店舗配送に用いる実証実験を2022年度後半に開始する予定です。電気トラックは、いすゞ自動車が2022年度内に、日野自動車も2022年初夏に発売する計画です。

いすゞ自動車はヤマト運輸と「エルフEVウォークスルー バン」のモニター稼働を実施している

いすゞ自動車はヤマト運輸と「エルフEVウォークスルーバン」のモニター稼働を実施している

日野自動車はヤマト運輸と「日野デュトロ Z EV」の実証実験を実施

日野自動車はヤマト運輸と「日野デュトロ Z EV」の実証実験を実施

また、三菱ふそうトラック・バスが他社に先駆けて2017年にリース販売を開始した電気トラック「eキャンター」は、2021年11月には世界累計販売台数が300台に到達し、国内では70台以上が稼働しています。
カーボンニュートラルの取り組みはEVだけではありません。燃料電池(FC)を活用する動きも進んでいます。日野自動車とトヨタ自動車が共同開発したFC大型トラックは、2022年から物流業務における走行実証を行う予定です。いすゞ自動車とホンダが共同研究として取り組んでいるFC大型トラックは、2022年度にモニター稼働を開始する予定です。コンビニエンスストア大手3社も、小型FCトラックを活用して2021年から店舗配送の実証実験をそれぞれ開始しています。
さらに、政府はカーボンニュートラルな生物由来の合成燃料の技術開発に注力しています。長期プロジェクトである「グリーンイノベーション基金事業」から合成燃料の技術開発に約575億円を拠出することを決定しました。EVでは航続距離の確保が難しい大型車での長距離輸送や山奥の現場など作業系用途での活用などを想定しています。

日野自動車がトヨタ自動車と共同開発する大型FCトラックのイメージ

日野自動車がトヨタ自動車と共同開発する大型FCトラックのイメージ

三菱ふそう「eキャンター」は国内で70台以上が稼働している

三菱ふそう「eキャンター」は国内で70台以上が稼働している

コンビニ大手はトヨタ自動車などの小型FCトラックを用いて実証実験

コンビニ大手はトヨタ自動車などの小型FCトラックを用いて実証実験

深刻化するドライバー不足

トラック業界が抱える大きな課題の一つがドライバー不足です。国土交通省の「貨物自動車運送事業者数の推移」によると、運送業界では1990年の貨物自動車運送事業法施行以降、新規参入事業者が急増し、2007年には事業者数が1990年の1.5倍となる6万3000者となりました。その後、事業者数は6万2000者ほどの規模と横ばいで推移してきました。
ところが近年、深刻なドライバー不足や後継者不在などに加え、働き方改革、さらにコロナ禍での需要変動などにより、廃業や他社への事業譲渡などを検討する中小零細の事業者が増えているとされています。
さらに2024年度からトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制を罰則付きで適用する「2024年問題」があります。トラック運送業界は将来的に20万人超のドライバー不足に直面するという試算もあります。このため事業ごと譲り受けることでドライバーを補充しようと考える事業者も増えています。

ドライバーの労働環境を改善する取り組み

ドライバーの労働環境改善や働き方改革も喫緊の課題です。厚生労働省の調査では、大型トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均を2割以上も上回り、年間所得額は全産業平均より1割近く低い結果となっています。ドライバー不足にも直結する厳しい労働環境の解決策として注目されているのが自動運転技術です。大型車メーカー各社では事業化を視野に入れた自動運転レベル4(特定条件下における完全自動運転)などの実証実験を行っています。
完全自動運転大型トラックの2030年量産化を目指すUDトラックスは、2019年に日本通運などと共同で、大型トラックでは国内初の公道試験走行を含むレベル4の実証実験を北海道の製糖工場で行いました。
2022年下期には、神戸製鋼と兵庫県の製鉄所でレベル4共同実証実験を開始する予定です。日野自動車も2020年に大林組と大型ダンプトラックを使ったレベル4の共同実験を三重県のダム建設現場で実施しました。いすゞ自動車は2022年末までに閉鎖空間でのレベル4実証実験に着手する計画です。長距離・長時間の高速走行となる幹線輸送では、いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの4社などが参加し、高速道路で大型トラックによる隊列走行の実証実験を行いました。実証実験では複数の後続車が無人で隊列走行する技術の有用性などが確認できましたが、実用化にはさまざまな課題が山積しているのが実情です。
また、けん引貨物車での輸送では、ヤマト運輸など大手運送事業者4社が宅配貨物などの幹線輸送の区間で、大型トラック2 台分の輸送を1台のけん引車で可能とするダブル連結トラックの共同運行を開始しました。ヤマト運輸のトレーラーを他の3社のトレーラーに連結して運びます。車両長25メートルとなるダブル連結トラックの対象路線は当初、新東名高速道路のみでしたが、その後、東北から九州まで拡充されました。日野自動車も子会社のNEXT Logistics Jap(ネクスト・ロジスティクス・ジャパン)を通じて、ダブル連結トラックを活用した幹線輸送の効率化・省人化を実現する運送スキームの構築を様々な業種のパートナーとともに進めています。

幹線輸送の隊列走行。実用化にはさまざまな課題も

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ダブル連結トラックの共同輸送が広がっている

ダブル連結トラックの共同輸送が広がっている

コネクテッド技術で輸送業務の効率化へ

トラック業界が抱える悩みとして、事業者間の競争激化に加えて、貨物の小口化や配達の高速化なども挙げられます。国土交通省によると、トラック運送事業者の宅配便取扱個数は2020年度に前年度比11.5%増の47億8494万個に増えました。巣ごもり需要が通販サイトなどBtoCの荷物を増大させましたが、宅配便は少量・多品種・多頻度配送となるため、貨物の積載率が低下しています。
このため大型車メーカーは輸送業務の効率化に向けて、配送管理などの新たなサービスの提供に積極的に取り組んでいます。日野自動車はサービス提供事業者のデータ連携を進めており、2020年10月にはHacobu(ハコブ)が提供する動態管理サービス「MOVOFleet(ムーボ・フリート)」が、日野自動車のコネクティッドトラックで利用できるようなりました。専用GPS端末がなくても車両位置の把握や自動着荷の記録保存などの機能が利用可能です。さらに、ドコマップジャパンが提供する同様のサービスにも対応し、2022年4月から一般向けに提供予定です。また、日野自動車は2021年5月、関西電力と電動商用車の導入・運用を支援する合弁会社「CUBEーLINX(キューブリンクス)」を設立しました。キューブリンクスは、オフィス用品通販サイトのアスクルと日野デュトロ Z EVを用いた電動車の最適稼働マネジメント実証実験を2022年1月に開始しています。
いすゞ自動車はコネクテッド技術を活用した運行管理のスマートフォン用アプリケーションを開発し、2022年3月に提供を開始します。このアプリは車外から灯火類の操作ができ、通常は2人で行う運行前点検が1人で行えるようになります。コネクテッド機能を拡充することで、物流事業者の業務効率化に結び付けました。
メーカーを限定しないサービスの提供もあります。三菱ふそうトラック・バスは2021年7月、米ソフトウエア開発会社の配車管理システムの販売を開始しました。AI(人工知能)と機械学習により最適な配送計画を自動作成し、ドライバーのスマホに指示を送ります。これにより自社以外のトラックも利用できるようにしました。

三菱ふそうが発売した配送管理システム。ドライバーのスマホに配送計画が送られる。車両の稼働や配送状況はリアルタイムで可視化される

三菱ふそうが発売した配送管理システム。ドライバーのスマホに配送計画が送られる。車両の稼働や配送状況はリアルタイムで可視化される

仲間づくりでトラック業界の課題解決へ

このように大型車メーカーは業界の垣根を越えて新技術に関するさまざまな取り組みを進めていますが、メーカー1社だけでは解決できない課題が多いのも実情です。このため自動車メーカー同士の連携にも積極的に乗り出しています。
いすゞ自動車と日野自動車、トヨタ自動車は2021年4月、商用車のCASE普及を目的に技術企画会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」を立ち上げました。FCVを含む電動化や自動運転、テレマティクスを含む電子プラットフォームの共同開発などを行います。
2021年9月からは、スズキとダイハツ工業も参画。協業体制が軽商用車にまで広がりました。
トラック輸送による物流は、日本社会を支えるインフラとして今後も重要な役割を担うことに変わりはありません。一方で、トラック業界が抱える課題は多岐にわたり、運送業界だけでなく政府をはじめ日本全体で議論を深めて解決していく必要があります。新体制で動き出した自工会は、トラック業界の課題解決に向け、仲間づくりを進め、自動車業界550万人の力を合わせた取り組みを加速させています。

いすゞ自動車が構築する商用車コネクテッド情報プラットフォーム

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Hacobuの動態管理サービス「MOVO Fleet」は日野自動車のコネクティッドトラックで利用できる

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