コロナで変わる?クルマの使われ方④

「趣味のクルマ」の世界 コロナ禍でスポーツカー、バイク、旧車の人気加速

自工会広報誌「JAMAGAZINE」3月号よりピックアップ

新型コロナウイルスの感染拡大により、趣味としてクルマを楽しむ人が増えています。海外旅行や外食といったコロナ禍で我慢を余儀なくされている楽しみがある一方で、世界的にオープンカーやバイクといった趣味性の強い乗り物に人気が集まっています。さらに旧車ブームや米国の「25年ルール」なども重なり、中古車市場でも価格高騰が続いています。

コロナ禍で時間やお金の使い道に変化

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、日米欧主要国の実質GDP成長率が戦後最低を記録するなど経済に大きなダメージを与えました。一方で、日経平均株価は感染拡大当初こそ大きく下落しましたが、2021年9月には3万円の大台を突破するなど、経済回復が進んでいる側面もあります。実際にコロナ禍以降の消費者の購買意欲は旺盛で、「巣ごもり需要」による家電の販売増加のほか、マンション価格の高騰、高級ブランド品も販売好調です。新車販売も、サプライチェーンの混乱による供給不足の影響もあるものの、人気車種が長納期化するなど受注は好調に推移しています。
購買意欲に加えて感染拡大による行動制限が、趣味の世界に影響を及ぼしています。国をまたいだ移動が厳しく制約され、気軽に海外旅行を楽しむのは難しいのが実情です。さらに感染防止やテレワークの普及により、友人や同僚との会食といった機会も少なくなるなど、日常生活の楽しみ方が大きく変化しました。
これらの行動や意識の変化と、時間やお金に余裕が生まれたことで、これまでは所有するにはハードルが高いと思われていた趣味性の強いクルマに注目が集まっています。

販売好調なオープンカーやバイク

その結果、新車市場では密を避けながら非日常を味わえるオープンカーやオフロード車、二輪車などが売れています。2021年の販売台数では、マツダ「ロードスター」は前年比21.7%増、生産終了が発表されたホンダ「S660」は同53・0%増、ダイハツ「コペン」も同7.3%増と好調に推移しています。スズキ「ジムニー」は現行型発売から3年以上経過していますが依然として1年を超える納期で、トヨタの新型「ランドクルーザー」に至っては世界な人気を受けて4年以上に納期が伸びています。
「密」を避けたパーソナルモビリティとして二輪車の販売も好調です。コロナ禍以降の販売台数では、軽二輪(126~250cc)は2020年が前年比27.5%増の7万4392台と大幅に伸長しました。年販7万台を超えたのは2008年以来12年ぶりです。2021年も同6.1%増と高い水準を維持しています。251cc以上の小型二輪も人気で、2021年は前年比24.0%増の8万3571台と、2007年以来14年ぶりに8万台超の販売を記録しました。車種ではホンダ「レブル」シリーズや、「GB350」、ヤマハ発動機「SR400」、カワサキモータース「Z900RS」などが人気を集めています。

生産終了の発表による注文殺到で増産を決めた「S660」

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43年の歴史に幕を下ろす「SR400」。ファイナルモデルに注文が相次いだ

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世界中で人気の新型「ランドクルーザー」は納期が4年超に

国内外で旧車やネオクラシックの人気沸騰

趣味のクルマの人気は新車だけではありません。1960~70年代のいわゆる「旧車」や1980年代以降の「ネオクラシック」などの引き合いが強まっています。具体的には、日産「スカイライン」、「シルビア」、トヨタ「カローラレビン/スプリンタートレノ」(AE86)、「ランドクルーザー」、ホンダ「S2000」、「シビックタイプR」、マツダ「RX-7」、三菱「ランサーエボリューション」などです。発売当時の新車価格を上回る中古車相場を形成しており、「スカイラインGT-R」は1000万円を超えるケースも珍しくありません。
人気の背景には、生活に余裕のできた年配層が若い頃の憧れだった名車を手に入れたり、アニメやマンガ、ビデオゲームなどの影響で若者が初めてのクルマとして購入するケースもあるなど、年代を問わない関心の高さがあります。趣味のクルマの中でも古いクルマは手がかかるため、メンテナンスやカスタマイズを楽しむことを含めコロナ禍で時間に余裕ができたことも購入を後押ししています。
また、国内のみならず海外でも高い人気を集めています。映画やゲームなどによる世界的な日本車ブームに加えて、右ハンドル車の走行が原則禁じられている米国で海外製輸入車両の規制を製造から25年で緩和する「25年ルール」が適用されることが旺盛な輸出需要につながっており、中古車相場の高騰に拍車をかけています。

漫画で人気の「AE86」もブレーキキャリパーやドライブシャフトを再販

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国内外で人気の「スカイラインGT-R」は価格が高騰している

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マツダはアンケートで要望の多いパーツを選定して復刻

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部品の復刻で支援する自動車メーカー

 世界的な旧車やネオクラシックの人気を受けて、自動車メーカーも動き出しました。古い車両の補修部品を復刻して再販することで、クルマファンの期待に応えようとする取り組みです。トヨタは「GRヘリテージパーツ」として、スープラやAE86、ランドクルーザー、「2000GT」の部品の供給を開始しました。日産は「ニスモヘリテージパーツ」として、金型を用いずに成形する「対向式ダイレス成形」や3Dプリンターといった最新の生産技術を活用し、スカイラインGT-Rのボディーパネルやワイヤーハーネス用保護材などを供給しています。ホンダも「ビート」の部品供給のほか、「NSX」のレストアサービス、S2000のパーツカタログのウェブ公開などを行い、マツダも初代「ロードスター」のレストアサービスや、RX-7の部品を復刻して販売を開始しました。古いクルマを維持する上で懸念となる部品供給の支援を積極化しています。

日産が最新技術などで供給する「ニスモヘリテージパーツ」

日産が最新技術などで供給する「ニスモヘリテージパーツ」

各種税金や駐車場代といったクルマの維持費が相対的に高い日本では、これまで趣味のクルマを持つということはどうしても選びにくい側面がありました。コロナ禍をきっかけにクルマやバイクの楽しさを満喫する人が増えることは、日本での自動車文化の多様化やさらなる発展につながることが期待できそうです。

 

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