- 2021/06/02
- JAMAGAZINE, その他, 記者の窓
【記者の窓】ジムニーに会いに故郷へ
広報誌 #JAMAGAZINE では自動車産業記者会所属の記者の方々によるクルマにまつわるリレーコラムを連載しています。
5月号は産経新聞社の宇野貴文記者です。
新型コロナウイルスの感染再拡大を受けた2度目の緊急事態宣言の解除後、桜が見頃を迎えた週末。休みを利用して東京の自宅から電車で神奈川県藤沢市に帰省した。公共交通が発達した都心近くに住んでいれば、マイカーがなくても不便ではない。前任地の前橋支局ではデスク業務だったため、徒歩で通勤していた。昨年10月に東京本社の自動車担当に戻ってからも「クルマ離れ」が続いている。
しかし、今回の帰省のきっかけはクルマだった。小田急湘南台駅で降りて、バスに乗り込んだ。いすゞ自動車の工場などを通過し、田畑が広がるのどかな郊外へ。道路沿いに目的地の白い建物が見えてきた。その名は「ジムニー歴史館」。1970年に軽自動車初の本格四輪駆動オフロード車として発売され、世界累計販売約300万台を達成したスズキのジムニーの歴史と変遷を伝える私設博物館だ。
私設というから素朴な平屋を予想していたが、とんでもない。総工費1億円超という建物は2階建て。館長の尾上茂さんが集めた歴代のジムニー約30台がずらりと並ぶ。親切に館内を案内してくれた尾上さんは地元で自動車販売・整備会社を経営する傍ら、オフロードレースで優勝経験もある筋金入りのクルマ好きだ。ダカールラリーにも挑戦し、3回完走した。BGMには1950年代のスタンダードジャズが流れ、林道や雪道を猟犬のように疾走するジムニーの雄姿が頭の中に浮かぶ。ジムニーの骨組みの展示コーナーもあり、クルマの構造も勉強できる。
2階へ通じる階段を上りながら、1階の愛車たちに視線を向けた尾上さんは「ここからの眺めが好きなんですよ」と、なんともうれしそうだ。専門家でなくても1台1台をゆっくりと見ていると、クルマも人間と同様に十人十色だとよくわかる。2階には、女性をターゲットにして発売された二輪駆動車、尾上さんが「ケロヨン号」と呼ぶカエルのようなユニークな外観のカスタム車もある。尾上さんの「ジムニー愛」に圧倒されたが、これだけの施設を維持管理するのは大変だ。そのため入館料の代わりに、大人1000円以上の寄付をお願いしている。
この日は、記者以外に親子連れの来館者もいた。小学生の男の子は、自分が生まれるはるか前に製造されたクルマに興味津々の様子だった。クルマを取り巻く時代の変化は激しい。菅義偉政権は2035年までに新車販売の電動車の割合を100%とする方針を掲げる。各メーカーは自動運転技術の開発も進めている。
今の子供たちが大人になる日には、どんなクルマが走っているのだろうか。未来を想像するのも楽しいが、魅力的なクルマは時間がたっても色あせないことを故郷のジムニーが教えてくれた。