CASEで知的財産権が重要に

自工会広報誌「JAMAGAZINE」12-1月号よりピックアップ

 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に代表される産業構造の変化に伴い、自動車業界においても知的財産権の重要度が増しています。日本自動車工業会の知的財産部会では、日本の基幹産業である自動車に関連する知的財産権を尊重し、イノベーション活性につながる知財制度・環境の実現に向けて各国において適切な保護、利用が行われるよう国内外で活動をしています。知的財産部会の別所弘和部会長に現在の取り組みや課題などについて聞きました。

知的財産部会 部会長 別所 弘和 

―知的財産部会の主な取り組みや特徴について教えてください

  「グローバルな活動が多いです。特許は国ごとに法律が異なっていて、各国の団体などと協調していく必要があります。もちろん、国内の各自動車メーカーは知的財産に関してプロフェッショナルであり、各国の制度についても深く理解されています。自工会では、例えば日本にある良い制度を他の国に導入を促す活動も行っています。他の国とも連携を広げていくことで、自動車業界のイノベーションをグローバルに促すことができると考えています」

―主な取り組みについて教えてください

  「主な活動としては。①標準必須特許(SEP)への対応、②意匠における公開繰り延べ制度の導入促進、③模倣品に対する対応の大きく3つとなります」

―SEP対応は何が問題になっているのですか

 「SEPとは標準規格を製品・サービスで実施する際に必要な特許権を指します。携帯電話で通話する場合に基地局と基地局の間でシームレスに電波を切り替える技術がありますが、一例として、こうした技術がセルラー通信に関する標準規格の中に盛り込まれています。通信規格(4G)ではSEPが約2万件にも上ると言われています。CASE対応で自動車メーカーは標準規格を使いますが、それによってSEPの利用に関する問題も新たに生じて
います。例えば、SEP自体は自動車に搭載する半導体や部品が実施しているにも関わらず、一部のSEP保有者は最終製品となるクルマに対して訴訟を起こし、高額な特許料を請求するようなケースもあります。こうした問題に対してルール化して合理的に解決できるよう、政府とも協力して取り組んでいます」

―意匠に関する課題とは

  「クルマにとってデザインはとても重要です。意匠の権利を取得するために意匠出願すると登録後、デザインが自動的に公開されることになりますが、これはクルマだとものすごいインパクトがあります。日本では秘密意匠制度という名称の公開繰り延べ制度があり、権利設定後も一定期間意匠登録公報発行を繰り延べできます。中国でも昨年、日本に似た制度が導入されました。こうした制度はグローバルで導入して欲しいという声が多く、自工会としても各国に制度の導入を働きかけていきます」

新興国特許庁審査官向け自動車技術説明会(インド)

「スペアパーツに対する意匠保護を制限する動きも問題です。修理や交換用に用いるバンパーやフェンダーなどの部品に対して、意匠権を侵害することなくオリジナルと同様の商品をサードパーティーが提供できるよう、意匠権の効力を制限する法改正の動きが欧州を中心に起きてます。デザインが同一であっても、十分な機能や安全性を満たしていないケースもあり、補修部品であっても知的財産権として保護されるべきだと考えています」

―新興国を中心に模倣品の問題も顕在化しています

 「模倣品に対しては、知的財産権を活用する対策のみならず、消費者側における意識向上を促す対策も重要なものと考えています。そこで知的財産部会では、中国IPG、JAPIA、中国外商企業協会(QBPC)等の加盟企業と共に、広州モーターショーで模倣品について消費者へ啓発するポスターや動画などの展示物を掲示したブースを設置する活動を行っています。また、特に新興国においては、模倣品に対して知的財産権の活用を円滑に行えるような環境整備も重要です。二輪分野においては、模倣品の拡散が懸念されている国・地域での活動、例えば、JETROや日本特許庁と連携しながら、フィリピン現地当局へ意匠制度の整備に向けた働きかけを行っています。さらに、FAMI(アジア二輪車産業連盟)における活動を通じ、ASEAN(東南アジア諸国連合)の模倣品問題に関し、各国における知財保護啓発活動・知財当局との連携といった各国二輪業界団体の知財活動を積極的に支援しています」

広州モーターショー模倣品対策展示ブース

「JAMAGAZINE」バックナンバーはこちらでご覧いただけます。