日本の自動車メーカーによる #SDGs の取り組み

自工会広報誌「JAMAGAZINE」2月号よりピックアップ

 2015年の国連持続可能な開発サミットで採択された2030年までの目標「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成に向けて、さまざまな企業がSDGsへの貢献を目指す活動を進めています。その中で自動車メーカー各社は、気候変動対策としてのカーボンニュートラルや、交通事故の死傷者を減らす先進安全技術、誰もが利用可能な公共交通機関を拡大させる自動運転技術など、環境・安全技術の開発や最先端技術を搭載した車両の普及などの取り組みを加速させています。グローバルに事業を展開する日本の自動車メーカーがSDGsの目標達成への貢献に本腰を入れたことは、日本のSDGsの進展にも大きく寄与することになると期待されています。

 SDGsは持続可能な世界を実現するための行動計画の国際目標として設けられ、経済、社会、環境の3側面から捉えた17のゴール(目標)と、目標をより具体化した169のターゲットで構成されています。持続可能な開発のために不可欠な必要条件とされ、企業は自社が将来に向けて取り組むべき重要課題を特定してゴールとターゲットを選択し、その課題解決に向けた活動を進めてSDGsの目標達成に貢献します。
このため自動車メーカーが貢献する活動は、自動車の環境・安全技術の開発や最先端の自動車の普及だけではありません。自動車の生産から廃車に至るまでのライフサイクル全般の二酸化炭素(CO2)排出量削減、グローバルな生産拠点の展開によるさまざまな国・地域での雇用の創出や生活水準の向上、地域社会の活性化など、これまで取り組んできたCSR(企業の社会的責任)の取り組みを含め、さまざまな活動をSDGsの目標に照らし合わせてグレードアップしています。
この動きは日本政府が2020年12月、今後の10 年を2030年の目標達成に向けた「行動の10年」とするためのSDGsアクションプラン2020を発表したこともあり、自動車メーカー各社が取り組みを強めました。日本の産業をけん引する自動車メーカーがSDGsの目標達成に力を入れたことで、サプライチェーンや物流、販売ネットワークなど日本の産業界全体へ広がる効果も期待されています。

SDGsの7ゴールの達成に大きな力を持つ自動車産業

 SDGsの17ゴールのうち、自動車産業が最も大きく関わっているのは3の「すべての人に健康と福祉を」と7の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、11の「住み続けられるまちづくりを」、12の「つくる責任つかう責任」、13の「気候変動に具体的な対策を」の6つです。
人々の移動手段として欠かせない自動車を製造する産業として安全かつ環境にやさしい自動車を市場に提供し、誰もが自由に移動できる車社会の実現に日々、努力を重ねていることが、6つの目標達成に大きな役割を持っています。また、国内で約550万人が関わる産業として、自動車産業の健全な発展は8の「働きがいも経済成長も」の目標達成に欠かせません。

クリーンなエネルギー利用で気候変動対策を支える

 2019年度の日本のCO2排出量(11億800万トン)のうち18.6%を運輸部門の排出量(2億600万トン)が占めています。同部門のうち旅客自動車は49.3%(日本全体の9.2%)、貨物自動車は36.8%(日本全体の6.8%)を排出し、同部門に占める自動車からの排出量は86.1%(日本全体の16.0%)となっています。
地球温暖化に歯止めをかける2050年のカーボンニュートラルに向けて、CO2排出量を削減していくことは重要なテーマであり、自動車メーカー各社は自動車の環境性能の向上に努めています。その中でハイブリッド車(HV/HEV)やプラグインハイブリッド車(PHV/PHEV)、水素燃料電池車(FCV/FCEV)、電気自動車(EV/BEV)など、新技術を用いたさまざまな電動車両が誕生し、バイオディーゼル燃料や水素など、石油由来の燃料に代わる代替燃料も登場してきました。
自動車の燃料としてクリーンな再生可能エネルギーを利用することで、13の「気候変動に具体的な対策を」などへの目標達成に大きく貢献していくことができます。
また、クリーンなエネルギーの利用は自動車という製品だけにとどまりません。製造過程で用いられる電力を再生可能エネルギーに切り替える取り組みも進められています。自動車生産に関わるすべてのCO2排出量をゼロにする工場のカーボンニュートラルへの挑戦も始まっています。

自動車メーカーは工場全体のカーボンニュートラルにも挑戦する

誰もが安全に自由に移動できるまちづくりを

 自動車の技術革新により自動車の便利さは向上し続けています。その一つに自動運転技術があります。自動運転の技術開発の進展により運転の快適さは増し、さらに交通事故のない世界の実現にも近づいていきます。ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」のターゲットには、道路交通事故による死傷者の減少が含まれています。自動車の安全性能が高まっていく中で、自動運転技術が高度化していけば、自動車が歩行者や自転車、他の自動車、道路構造物などとぶつからないようになることが可能になり、交通事故がゼロとなる日が訪れることも期待されます。

量産車世界初の自動運転レベル3を実現した自動車も発売された

 また、自動車メーカー各社は多種多様な福祉車両やシニアカーなどを市場に提供し、体が不自由な人や高齢者などの交通弱者の移動手段確保に取り組んでいます。さらに移動するための手段として新たなパーソナルモビリティーの開発・販売も進展し始めました。

パーソナルモビリティーの市場投入も進み始めた

ラストワンマイルの課題にも対応

 様々な自動車が登場していく中で、今後、自動運転技術を組み合わせることにより、11の「住み続けられるまちづくりを」の目標達成に貢献することも自動車産業の役割となっています。近未来の都市交通にとって、公共交通機関への自動運転車の採用は不可欠です。また、過疎化が進む地域では高齢者などの日常生活の足を確保することが大きな問題となっています。ラストワンマイルの課題解消にモビリティーの多様化と自動運転技術の組み合わせが大きく役立つことになります。
さらに過疎化が進む中山間地では、地域の給油所が閉鎖されて自動車の燃料調達が難しくなる問題も起きています。ガソリンや軽油だけを使った自動車から電動車両に転換していくことで、このような問題も解消され、人々が地域に住み続けられるようにすることの支援にもつながっていきます。
このほか、まちづくりには、人々の生活を支えるための物流も課題となります。都市間を結ぶ高速道路では、車車間通信技術を用いたトラックの隊列走行実験も行われており、輸送の効率化と物流業界の人手不足解消策として期待されています。

輸送効率の向上や人手不足解消につながるトラックの隊列走行の実験も行われている

CSR活動がSDGsの目標達成に大きく貢献

 SDGsは人間、地球及び繁栄のための行動計画の目標とされています。このため目標達成には、自動車メーカー各社が取り組み続けているCSR(企業の社会的責任)活動をSDGsの観点から見直すことも行われています。これによりゴールの4の「質の高い教育をみんなに」や5の「ジェンダー平等を実現しよう」、15の「陸の豊かさも守ろう」、17の「パートナーシップで目標を達成しよう」などへの貢献に取り組む日本の自動車メーカーも数多くあります。
世界の自動車業界は、100年に1度の大変革期を乗り切るために資本や技術の提携などを行う自動車メーカーが増えました。このためグループ内で共同開発を行うこともあり、17の「パートナーシップで目標を達成しよう」が進められています。また、グループだけでなく、地域社会と連携して環境保全や自然災害への備えに取り組む活動も展開されています。
なかでも環境保全の取り組みは、開発・製造拠点単位での周辺地域の環境保全活動や、自動車メーカーが販売店と一緒になって自治体を支援する取り組みなど幅広く行われ、15の「陸の豊かさも守ろう」の目標達成の進捗に大きく貢献しています。
これまでCSR活動として行われてきた数々の活動が、SDGsに貢献することになります。その活動の中には4の「質の高い教育をみんなに」に貢献する活動があります。子どもたちへの交通安全教育のほか、開発・製造現場で培った技術を工業高校や自動車整備士養成校に伝えることなどです。さらにグループ内に工業大学や自動車整備専門学校を持つ自動車メーカーもあるなど、自動車メーカーが関わる教育支援は様々なところで行われています。

自動車メーカーは自治体と環境保全などにEVを活用する包括連携協定を結ぶ

従業員の誰もが働きやすい環境づくり 

 社会貢献活動が継続的に行われるためには企業内の健全化が不可欠です。従業員の誰もが働きやすく、働きがいを感じられる職場づくりは欠かせません。このような中で障がい者やLGBT(性的少数者)などの従業員も働きやすい環境整備が進められています。社内の表示にユニバーサルデザインを取り入れたり、結婚に関する福利厚生の対象を同性婚にも広げる自動車メーカーがあります。5の「ジェンダー平等を実現しよう」は企業にとって大きな課題であり、その取り組みが優秀な人材の確保にもつながります。
また、多様な働き方の実現の取り組みも進められ、製造現場などでは中高年の従業員が農家で働く仕組みを試験導入した自動車メーカーがあります。女性社員の保育士資格取得を支援するプログラムもつくられ、従業員がライフステージにあった働き方を選択できるようにする取り組みも進められています。

日本の自動車メーカーの巻き返しが始まる

 カーボンニュートラルや交通安全、まちづくりに不可欠な公共交通、ラストワンマイルの課題解消、産業技術の革新、製造責任、経済成長、環境保全、教育支援など、自動車産業が関わるSDGsのゴールとターゲットは数多くあり、その達成の責務に邁進しています。しかしながら世界の自動車産業の中で、日本の自動車産業のSDGsの取り組みは、欧米の自動車産業に遅れを取っているという声もあります。
これは、日本の電力供給において、石炭火力による発電が占めるウエートが大きいことが要因としてあります。加えて、欧米の自動車産業が自動車のEVシフトを加速させたことに対して、HVやPHV、EV、FCVといったマルチソリューションを唱えていた日本の取り組みを評価しない意見があったことも理由といえます。
日本の自動車メーカーのEVシフトが遅れていると言われる理由は、自動車を利用する地域や使い方に合った自動車の提供、自動車の電動化へのサプライチェーンの対応、車載電池などに用いる天然資源の確保問題など、現実的な課題を考慮したためです。
しかしながらグローバルに活躍する日本の自動車メーカー各社も世界の潮流を見極め、EVの市場投入を積極化していきます。また、欧州の自動車メーカーも水素利用に力を入れはじめています。カーボンニュートラルを中心にSDGsに貢献する活動の動きが速まる中、日本の自動車メーカーの巻き返しも始まっているのです。

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