#自動運転 技術最前線!

産官学のオールジャパンで国際競争力を

自工会広報誌「JAMAGAZINE」11月号よりピックアップ

参加企業の最新車両が並ぶ試乗会会場の様子

参加企業の最新車両が並ぶ試乗会会場の様子

 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)という100年に一度といわれる大変革期を迎える自動車業界。その中でも電動化と並んで激しい技術開発競争が繰り広げられているのが自動運転です。国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)の開催などもあり、昨今はカーボンニュートラルへの取り組みが世界的に大きな注目を集めていますが、一方で自動運転の技術開発も着実に進化しています。日本の自動運転開発の旗振り役でもある内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期自動運転プロジェクトが開催した「SIP-adus 実証実験プロジェクト試乗会(10/19〜20)」を通じて、国内での自動運転技術の最前線を見てみましょう。

なぜ自動運転?

 自動運転は、年齢や能力を問わず誰もが移動の自由を享受できるほか、移動時間の効率的な活用や、交通事故の撲滅など、人々の生活や自動車社会の発展に大きな貢献をもたらすことが可能です。すなわち自動運転の技術力が、将来の自動車産業の競争力を左右するといっても過言ではありません。このため米国や欧州など世界各国の自動車メーカーが、自動運転技術の開発にしのぎを削っており、日本の自動車業界も世界トップレベルの自動運転技術の開発に取り組んでいます。
とりわけ自動運転を実用化する大きな目的が、交通事故の撲滅です。国土交通省自動車局安全・環境基準課の猶野喬安全基準室長は、「交通死亡事故の95%は運転者の違反が原因であり、ゼロにするための取り組みとして自動運転が必要になる」と説明します。
自動運転には様々な段階が存在し、現在は国際的に「0」から「5」まで6段階のレベルが規定されています。これは車両システムがどの程度の運転操作を担うかで区分されており、自動車の制御に介入しない「レベル0」から始まり、衝突被害軽減ブレーキなどアクセルやブレーキ操作などを支援するのが「レベル1」、加減速やハンドル操作など複数の運転支援を同時に行うと「レベル2」となります。これらの自動運転技術は国内では普及が進んでおり、例えばレベル1の衝突被害軽減ブレーキは、すでに新車販売台数の約96%に搭載されています。また、2021年11月からは新型車への装備が義務化されました。
実際に衝突被害軽減ブレーキの効果は高く、「交通事故を対車両で約63%、対歩行者で約19%低減した」(猶野安全基準室長)といいます。また、24 年7月からは自転車に対応した衝突被害軽減ブレーキも義務化するなど、自動運転技術を活用して着実に交通事故を抑制していく考えです。

軽トラックによる衝突被害軽減ブレーキのデモ

軽トラックによる衝突被害軽減ブレーキのデモ

日産「ノート」

自動運転「レベル2」でナビ協調で操舵と車速を制御する運転支援技術を搭載した日産「ノート」

自動運転技術の境界線

自動運転「レベル3」を搭載したホンダ「レジェンド」

自動運転「レベル3」を搭載したホンダ「レジェンド」

 ただ、ここまでの自動運転は運転操作の主体はドライバーです。これが「レベル3」以降では車両システムが主体となり、「レベル4」は走行エリアを限定した完全自動運転、「レベル5」はエリアの制限もない完全な自動運転となります。なお、レベル3は車両システムでの操作判断が難しくなると運転操作がドライバーに切り替わるため、ドライバーは運転できる準備をしておく必要があります。
この「レベル2」と「レベル3」の間が、自動運転技術の大きな境界線となっています。レベル2まではいわば運転支援システムともいえますが、レベル3以降は運転の主体を車両システムが担うことが求められます。このため車両運行の責任の所在や、他の走行車両との協調といった、自動運転に対する社会的受容性も必要となります。まさに自動運転技術の最も難しい部分であり、自動車メーカーの技術開発だけでは解決できない課題です。SIPが産官学で連携しオールジャパンで自動運転の開発を進める理由でもあります。
SIPの自動運転開発は14年にスタートしました。14年から18年の第1期の活動では、自動運転の実用化に向けた法整備や、高精度三次元地図の実用化などに取り組みました。その結果、18年の安全技術ガイドライン策定、19 年の道路運送車両改正、20 年にはレベル3および4の自動運転車の基準を策定し、世界で初めてレベル3の型式指定を実施するなど、グローバルの自動運転開発競争において、今や日本は各国をリードする存在となっています。

会場には自動車メーカーやサプライヤーが最新車両を持ち込んだ

会場には自動車メーカーやサプライヤーが最新車両を持ち込んだ

 

無線通信やデジタルツインを活用

 さらなる自動運転の進化に向けて、SIPでは18年から第2期の活動に取り組んでいます。22年までの第2期では「交通環境情報の構築」「仮想空間における安全性評価技術」「自動運転サービスの事業化」「サイバーセキュリティー」などの重点課題を掲げています。今回のお台場で開催された試乗会では、交通環境情報の構築や仮想空間での安全性評価について具体的な取り組みを紹介しました。
交通環境情報の構築は、信号機や気象情報、渋滞情報といった時間とともに変化する情報を集めて処理し、三次元地図情報と組み合わせて利用することで、より高度な自動運転を実用化するのが狙いです。まず、狭域無線通信(V2I)による動的情報の利活用に着手。お台場にある33カ所の交差点に狭域無線通信設備を設置して、実証実験を行いました。
さらに11 月からは、広範囲での情報収集や情報提供が可能なLTEネットワークを活用した公衆広域ネットワーク通信(V2N)の実証実験を開始します。通信高速化を目的に発達した汎用性の高いLTEを活用することで、V2Iのような新たな通信インフラの設置が不要となります。具体的にはデータセンターと自動運転車両の間で、信号機情報や降雨情報、緊急車両情報などを受発信し、情報取得にかかる時間やデータの正確性などを検証します。
仮想空間の安全性評価では、自動運転車に搭載するセンサー類の安全性を仮想空間で検証できる仕組み「お台場モデル」を構築します。実証実験を行うお台場の走行環境データを活用してデジタルツインで再現。レーザー光による高性能センサー「LiDAR」やレーダー、カメラといった自動運転車に不可欠なセンサー類の安全性を様々な交通環境において検証できるシミュレーション技術を開発します。
センサー類の安全性検証は、自動車メーカーやサプライヤーなど各社が行うシミュレーションでは実際の走行環境を再現することが難しいため、リアルワールドでのテストを実施する必要が多く、開発の効率化が課題となっています。SIPではお台場モデルに参画する企業や団体をオールジャパンで募ることでモデルの有用性を高め、グローバルスタンダードなプラットフォームとして確立し、日本の国際競争力を引き上げていく考えです。

自動運転車には様々なセンサーが搭載されている

自動運転車には様々なセンサーが搭載されている

 

自動運転は最先端技術も普及技術もどちらも必要

葛巻 清吾氏 SIP自動運転プログラムディレクター (トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー フェロー)

葛巻 清吾氏 SIP自動運転プログラムディレクター (トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー フェロー)

[Q] SIPが自動運転に取り組んでいる理由を教えてください

[A] 自動運転は技術開発だけではなく、法整備を進めなければ実用化することはできません。中でも最もハードルが高いのが社会的受容性の醸成です。今回の試乗会も、衝突被害軽減ブレーキの普及など近年は自動運転が身近になっている中で、世の中に正しい理解を広めるために開催しました。

[Q] 具体的にどのような内容ですか?

[A] 第1期では高精度三次元地図を開発し、それを配信する会社としてダイナミックマップ基盤株式会社ができました。この地図を用いて日産自動車やホンダ、トヨタ自動車などから高度運転支援のクルマが実用化されており、今回はこれらを体感していただきます。また、11月から実証実験を行う信号機や渋滞、緊急車両といった動的情報の活用についても体感できます。さらに新車の96%に搭載される衝突被害軽減ブレーキをはじめ、軽自動車から高級車まで搭載されるすべての自動運転技術を体感していただきます。

[Q] 試乗会を通じてどのような効果を期待していますか?

[A] 自動運転を何のために開発するか、について理解を広げたい。自動運転の最大の目的は交通事故の削減です。実際に効果も出てきています。自動運転は最先端技術も普及技術もどちらも必要です。今後も取り組んでいきます。

清水 和夫氏 

清水 和夫氏 国際自動車ジャーナリスト

[Q] 世界の自動運転開発の現状について教えてください

[A] よく日本が遅れていると言われることがありますが、米国は自己認証制度であるなど制度の違いがあります。SIPが14年に立ち上がった時に、20年の五輪で自動運転を実現すると目標を掲げてオールジャパンで体制を組んで取り組んできたことが、世界の自動運転レベル3につながったと思います。昨今はカーボンニュートラルに隠れていますが、ドイツは自動運転で日本に先を越されてかなり悔しがっています。

[Q] この試乗会の趣旨とは?

[A] 自動運転は頭で考えていても良くわからないので、体験できるフィジカルなイベントを開催しました。19年以降東京モーターショーが開催されていないこともあり、SIPの枠組みでやろうという話になりました。オールジャパンの自動運転をすべて示すのが狙いです。

[Q] 試乗会を通じて何を伝えたいですか?

[A] 自動運転の現在地、将来に向けてどういう技術を実現するかメッセージを発信したいと考えています。また、自動車メーカーだけでなく、ドライバーのモラルなど社会全体で交通事故をなくしていこうというSIPとしての狙いもあります。

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