【記者の窓】バイク市場は復活するか

広報誌 #JAMAGAZINE では自動車産業記者会所属の記者の方々によるクルマにまつわるリレーコラムを連載しています。
3月号は東京新聞社の岸本 拓也記者です。

 昨年末、我が家でも「電動車」を導入しました。といっても、昨今何かと話題の電気自動車(EV)などの自動車の話ではなく、電動アシスト付き自転車のことです。10年ほど前に本社勤務となり、維持費と利便性を天秤にかけて自家用車を手放してしまった後は、「暮らしの足」といえば、徒歩が中心でした。3年前に長女が生まれてからも家族の外出はベビーカーを押しながらの徒歩や電車。しかし、子供が大きくなるにつれ、少しでも遠出したいという欲求がむくむくと沸きだし、自転車の購入に踏み切りました。

 届いた電動自転車の活躍はめざましく、なぜもっと早く買わなかったのかと、後悔しているほどです。子供を乗せてもすいすいと坂を駆け上がり、これまで足が伸びなかった公園や美術館、ショッピングセンターへも気軽に行けるようになりました。コロナ禍で遠出ができない鬱憤もあり、行き先の選択肢が広がったことは我が家にとっては革命的でした。何を大げさな、と思われるかもしれませんが、「モビリティ」がもたらす移動の自由の大切さを再認識しました。

 私の場合は自転車でしたが、気兼ねなく移動したいという渇望は、自動二輪車(バイク)人気という形で表れています。2021年の自動二輪車(排気量51cc以上)の国内出荷台数は前年比21.9%増の25万984台と、23年ぶりの高水準を記録しました。50cc以下を含む全体でも同15.3%増の37万8720台と、こちらは7年ぶりの高水準だったそうです。

 背景を掘り下げようと、昨年秋に二輪教習所や、バイク販売店の現場を取材しました。都内のある教習所では、自動二輪の受講生が前年比約2.5倍に増え、所長は「コロナで一時は倒産も覚悟していたのに」と驚いた様子。教習を受けていた女性に話を伺うと、やはり「電車は怖いので、通勤にバイクを使いたい」という動機でした。「仲間と一緒にツーリングにいって、キャンプもしてみたい」との目標も語ってくれました。販売店では、納車まで半年も待って、人気バイクの引き渡しを受けた60歳の男性から話が聞けました。「子育てが終わって、定年後の楽しみに買いました」と子供のような笑顔が印象的でした。

 「移動はしたい、でも密は避けたい」という2つのニーズが根底にあり、コロナ禍の移動制約が通勤やレジャー目的で、若者や女性、リターンライダーなど幅広い層のバイク需要を後押ししているようです。

とはいえ、長期的にみると国内のバイク市場は下降トレンドにあります。経産省などは昨年11月、2030年の二輪の国内新車販売100万台を「ありたい姿」として掲げた二輪車産業政策ロードマップを発表しました。事故死者ゼロや脱炭素に向けた電動化への取り組みも並行しながら、再び国内の二輪産業を活性化できるのか。その動向に注目していきたいと思います。

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