日本のモータースポーツ最新事情 カーボンニュートラルとファンづくりへの道 ③スーパー耐久

市販車をベースにしたレースマシンで戦う国内最高峰の耐久レースが「スーパー耐久シリーズ」 です。通称、S耐(エスタイ)と呼ばれており、国内外のスポーツカーから排気量1500cc以下のコンパクトカー、アマチュアドライバーとプロドライバーが同じコース上で戦うのが大きな特徴です。また、耐久レースという特色を生かし、次世代車などの自動車メーカーの開発車両が参戦するクラスを設けるなど、独自のレースカテゴリーとして存在感を高めています。

S耐では、車両規格や排気量、駆動方式などによって最上位クラスの「ST-X」から1500cc以下のマシンが参戦する「ST-5」まで9クラスに分類されています。「プライベーターやメーカー、教育関連(ディーラーや自動車学校)など、様々なバックボーンをもつチームが参加しており、台数も増えている」(桑山晴美事務局長)状況です。

ST-Xは、国際自動車連盟(FIA)が定めるGT3規則に準拠したマシンが出場可能で、今シーズンは「NISSAN GT-R  NISMO GT3」「レクサスRCF GT3」に加えて、「ポルシェ911GT3R」「メルセデスAMG GT3」の海外勢が参戦。ST-Zは「トヨタ GRスープラGT4」、ST-TCRには「ホンダ シビックタイプR TCR」が参加しています。ST-1~5は市販車改造クラスで、排気量や駆動方式によって区分されています。

2021年シーズンに新設されたのがST-Qクラスです。自動車メーカーの開発車両や各クラスに該当しない車両、S耐を運営するスーパー耐久機構事務局(STO)が認めた開発車両も参戦できるようになりました。

昨シーズンから参戦する水素エンジン搭載の「GRカローラ」

今シーズンは、昨シーズンに引き続きトヨタ自動車が水素エンジン車「GRカローラ」で参戦。また、トヨタとスバルはカーボンニュートラル燃料(CNF)を使った「GR86」「BRZ」もエントリーしています。マツダはバイオディーゼル燃料の「マツダ2」で出場するほか、日産自動車も「富士SUPER TEC 24時間レース」にCNFを使用した「ニッサンZ」で参戦しました。

ユーグレナのバイオディーゼル燃料「サステオ」を使用する「マツダ2」

このST-Qが、カーボンニュートラルの実現に向けた自動車メーカーの走る実験場となっています。桑山事務局長は「市販車ベースのマシンを走らせている以上、自動車メーカーや世の中の流れに追従し、これからの市販車に寄り添った展開となる。そこにスーパー耐久の新しい道が拓ける」とST-Qクラスへの期待感を示します。

日産はCNFを使用する「Z」で富士24時間レースに参戦

日本市場では電気自動車(EV/BEV) のみならず、ハイブリッド車(HV/HEV)、燃料電池車(FCV/FCEV)など電動車の選択肢を増やす取り組みが進んでいます。それだけにS耐においても、「今はあえて『決めない』ことを選択し、その柔軟性を武器にしながら、モータースポーツを通じた社会貢献ができればと」と桑山事務局長は強調します。

市販車ベースで自動車ユーザーとの距離が近いこともあり、ファンづくりにも注力しています。動画の活用を進めており、幅広い参戦車両が特徴のS耐の魅力を、動画を通じてアピールする狙いです。実際に2017年から始めたYouTube公式チャネルでは「当初は数十人しか見ていなかったが、昨年の24時間大会では、最大同時視聴者数が2万5000人近くとなった」(同)と動画ニーズの高さを説明します。サーキットでしか味わえない醍醐味もありますが、「いつでもどこでも無料で楽しく視聴できる」(同)ことにこだわったファン作りを進めていく考えです。

桑山晴美事務局長