医療機器にも対応。電動車による給電の最新事情

電気自動車(EV/BEV)やハイブリッド車(HV/HEV)、プラグインハイブリッド車(PHV/PHEV)、燃料電池車(FCV/FCEV)など、電気を動力源とする電動車には 、災害時の非常用電源をはじめ、アウトドアやリモートワークなどさまざまな場面で電気の需要が高まっており、クルマ側も給電機能の普及が進んでいます。中でも容量の大きな電池を搭載するEVやPHVは、建物と繋いで家庭用蓄電池として活用するV2H(ビークル・トゥ・ホーム)に利用されています。一方で、給電に対する正しい理解や注意喚起といった課題もあります。自工会をはじめ業界団体では、安心して給電機能を利用できる環境整備を進めており、新たに医療機器への給電に関するマニュアルを作成しました。

電動車は「動く蓄電池」として災害時に活用する動きが進んでいます。震災に加えて、近年では記録的豪雨による洪水や停電、寒波による大雪など、甚大な被害をもたらす自然災害も多発しています。特に2019年の台風15号や19号による大規模被害では、電動車の価値がクローズアップされ、これを機に電動車を導入する自治体が増えました。

さらにコロナ禍により、アウトドアやリモートワークなど密を避けて活動するツールとしてクルマの価値が見直され、給電機能を搭載した電動車へのニーズも高まっています。アウトドアでは給湯器や電気式グリルといった電気製品を活用する事例が増えています。リモートワークでもノートパソコンなどのモバイル端末が欠かせないため、電源の確保が不可欠となります。

アウトドアでも給電に対するニーズが高まっている

その中で自動車メーカーも、電動車の投入や給電機能の採用を積極化しています。日産自動車は「サクラ」や「アリア」などEVの新型車を発売したほか、マツダも新型SUV「CX-60」に同社初のPHVを設定するなど、給電機能搭載車の市場投入が続いている他、トヨタ自動車はHVを中心にAC100V最大1500Wのアクセサリーコンセントの設定を広げています。

給電機能の採用が広がっている(写真はアクア)

ただ、電動車からの給電には注意も必要です。住宅のコンセントから得られる商用電源とは特性が完全に一致しないため、電気製品が本来の性能を発揮できないケースもみられるほか、電気製品の故障や事故につながる恐れもあります。このようなリスクを理解し、給電機能を安全かつ適正に使用する必要があります。このため自工会では、AC100V・1500Wコンセントを搭載する電動車から電気製品へ給電する際は、電気製品の取扱説明書を確認するなど、特設ページで注意を呼びかけています。

電気製品への給電は正しい知識と適切な利用が不可欠

中でも課題となっていたのが医療機器への給電です。クルマの給電機能は構造上、燃料切れや故障発生時、給電が最大出力を超えた際などに停止してしまうため、電源の停止が人命に関わる医療機器への給電は控えるように呼び掛けていました。

ただ、停電など災害時に非常用として使用したいという要望も多いのが実情です。このため自工会では国土交通省などとともに医療機器の使用に関する調査を実施。その結果、2022年3月に「災害時における電動車から医療機器への給電活用マニュアル」が国交省および経済産業省から発行されました。

同マニュアルでは、特に給電需要が高いと考えられる「人工呼吸器」「酸素濃縮器」「吸引器」を主な対象としています。各機器の消費電力や給電時の注意事項、医療機器への影響などをわかりやすくまとめています。これにより災害時などに安心して給電機能を使用できる環境を整えるとともに、いざという時に活躍する電動車の普及につなげていく考えです。

担当者インタビュー

自工会 電動車部会 電動車100V AC給電WG委員
木野村 茂樹
(トヨタ自動車 電力変換ユニット開発部 充給電システム開発室主査)

―以前は電動車から医療機器への給電は控えるように呼び掛けていました

「給電WGが立ち上がった当初は、自動車メーカー各社で議論した結果、医療機器は使用しないでくださいと注意喚起していました。車両側の都合で電気が止まってしまうのは危険だと考えたためです。とはいえ、停電など非常時に使えないかという声を多くいただきました。このため国交省の調査事業として医療機器との接続試験を実施し、電源品質や機器の作動などを評価しました。その結果、今年3月の災害時利用マニュアルの発行に至りました」

医療機器の接続試験の様子

―具体的にどのような機器の使用を想定していますか

「主に『人工呼吸器』『酸素濃縮器』『吸引器』を対象としています。マニュアルに記載された車両側と医療機器側の注意事項を踏まえて使用いただくことを想定しています。」

―医療機器の使用にはどのような課題があるのですか

「人工呼吸器を使用する方は、人工呼吸器以外にもさまざまな機器を使うことが多く、複数の機器を使用すると1500Wでは足りないケースもあります。また、流量の大きな酸素濃縮器なども起動時などに定格消費電力を大きく上回る電力が発生することがありを、給電が止まってしまう可能性もあります。必要な量が多い方こそ機器の重要性が高まるのが、医療機器を給電する際の難しさです。ただ、実際には酸素ボンベをバックアップとしてお持ちの方が多く、医療機器も万が一止まってしまった際を想定した運用とすることで、車両の給電機能を安心してお使いいただけます」