レースは「走る実験室!」富士24時間レース

スーパー耐久シリーズ(S耐)の「第2戦 NAPAC富士SUPER TEC24時間レース」が5月26~28日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催されました。市販車をベースにした国内最高峰のレースであるS耐の中でも、とりわけ注目度が増しているのが開発車両向けクラス「ST-Q」です。今回は新たに本田技研工業がカーボンニュートラル燃料(CNF)を使用したマシンで参戦したほか、トヨタ自動車は液体水素を使用した車両を世界で初めてサーキットで走行させました。24時間耐久という厳しい条件に敢えて挑戦しカーボンニュートラル(CN)の技術を磨きました。

ST-Qクラスは、2021年シーズンに新設されたカテゴリーです。自動車メーカーの開発車両など各クラスに該当しない車両で、スーパー耐久機構(STO)が認めた車両が参戦するクラスです。こうしたレースは世界的にもあまり例はなく、各社がCN技術を磨こうとしのぎを削っています。

今回の24時間耐久に参戦した自動車メーカーは5社です。中でも注目を集めたのは液体水素で走行したトヨタの「水素エンジンカローラ」です。これまでは70メガパスカルに圧縮した気体水素を使用していましたが、1回の充てんで走行できる距離の短さが課題でした。このため、気体に比べ体積が800分の1の液体水素を使用する準備を進めてきました。結果は完走。給水素や当初から予定していた部品交換作業の時間を挟みながら24時間で358周を走り切りました。

完走に至るまでにはさまざまな困難もあったといいます。液体水素を燃料とした水素エンジンカローラは当初、3月に鈴鹿サーキットで開催されたS耐第1戦に出場する予定でしたが、事前のテスト走行で水素漏れによる火災が発生し欠場しました。このため今回は水素配管をエンジンの高温部から遠ざけるなどの対策を施し、トラブルなく完走することに成功しました。

液体水素にしたことで航続距離は大幅に改善しました。気体水素の場合は約10周ごとに充てんのためにピットインする必要がありましたが、今回のレースでは最大16周まで伸ばすことができました。液体化によってこれまではコース外で行っていた充てん作業をピットで行えるようにしたことも時間短縮につながりました。

ピットでの液体水素の充てん作業の様子

市販化に向けてはまだまだ課題があります。開発陣が今後の改善点に挙げるのが、水素タンクから液体水素を昇圧しながら吸い上げるためのポンプです。液体水素はマイナス253度以下に保冷する必要があります。この超低温の過酷な環境のため、24時間のレース中に2度の交換作業が必要でした。重量増加の要因でもあるポンプの軽量化を図るとともに耐久性を向上していく方針です。

水素以外のCNFで走行するマシンも増えています。今回参戦したのは、トヨタ「GR86」やSUBARU(スバル) 「BRZ」、日産「フェアレディZ」、ホンダ「シビックタイプR」、マツダ「MAZDA3」です。ホンダがCNFを使用してST-Qに参戦したのは今回が初めてです。こちらもすべてのマシンが24時間走り続けることに成功しました。いずれも燃料の制御や車体などに課題はありますが、参戦を重ねる度に知見を蓄積し、改良を続けていく見通しです。

GR86

BRZ

シビックタイプR

MAZDA3

フェアレディZ

22年からCNFで継続的に参戦しているトヨタやスバルによると、燃料に最適化した制御を磨く中で燃料に求められる仕様が見えてきたといいます。現在使用しているCNFは、JIS 規格に適合する燃料ですが、揮発しにくいことが課題だといいます。燃料会社にレースを通じて見つかった課題を伝えることで、CNFの開発につなげてもらう考えです。

このように、S耐は自動車メーカー各社がCN技術を競い合う場である一方、新しい技術を共につくる場でもあります。そこで、22年に参戦したメーカーの役員やエンジニアの意見交換の場として「S耐ワイガヤクラブ」が発足しました。サーキットでは会議室でスーツを着ていては出てこない話も出てくるのかもしれません。

28日にはトヨタの佐藤恒治社長と6月に社長に就任するマツダの毛籠勝弘取締役専務執行役員、スバルの大崎篤取締役専務執行役員の3人で行ったラウンドテーブルでは、「CNがメーカーの垣根を取り払った」(毛籠取締役)、「佐藤さんや毛籠さんのチームともデータを共有してCNを追求する」(大崎取締役)、「S耐での取り組みは、日本の自動車産業全体で多様性を持って動こうという取り組み」(佐藤社長)と話し、レースをきっかけにメーカー間で連携してCNを目指す考えが示されました。

トヨタ、スバル、マツダの3社は記者向けの合同ラウンドテーブルを実施(左からトヨタの佐藤恒治社長、スバルの大崎篤取締役専務執行役員、マツダの毛籠勝弘取締役専務執行役員

富士スピードウェイに隣接するトヨタ交通安全センターモビリタでは28日、ENEOSが初めて合成燃料を混合したガソリンでハイブリッド車「プリウス」を走らせ注目されました。会場にはENEOSの齊藤猛社長のほか、太田房江経済産業省副大臣らも訪れ、合成燃料普及に向けた大きな一歩を祝いました。モータースポーツを軸にCNを目指す取り組みが広がっています。

ENEOSが実施した合成燃料による「プリウス」のデモ走行

関連リンク

2021/04/28 カーボンニュートラル基礎知識

2023/05/25 世界初!二輪レースにカーボンニュートラル燃料