より良い社会づくりに貢献 自動車メーカーの財団活動

自動車メーカーの中には、社会貢献を目的に、財団法人を設立して活動している企業があります。各社の歴史や社会的使命に基づき、教育、科学技術、環境、福祉、芸術といった分野で、それぞれ特徴のある活動を行っています。そのユニークな活動を紹介します。

スズキ財団
公益財団法人スズキ財団(鈴木俊宏理事長)は、1980年3月、スズキ株式会社の創立60周年の記念事業として、機械工業の発展を願い「機械工業振興助成財団」(基金1億円)で設立したのが始まりです。小型自動車をはじめとする機械工業の発展と国民福祉の増進への寄与を活動の目的とし、生活に密着した機械などの生産・利用・消費に関する科学的研究に助成を行っています。活動は、全国の大学などに常勤する研究者への「研究助成事業」、シンポジウム開催や海外研修助成など「科学的研究成果の普及助成事業」、そして「外国人の科学的研究・研修に対する助成事業」と幅広い領域にわたります。

2020年度には、財団設立40周年を記念し、優れた功績を上げた研究者・開発者を毎年顕彰する「やらまいか大賞」と、過去に財団が助成した研究の成果を基に、顕著な功績を挙げた研究者を顕彰する「やらまいか特別賞」を創設しました。「やらまいか」という言葉には、静岡県西部の方言で、「とにかくやってみよう」という意味があります。「あれこれ考え悩むより、まず行動しよう」という遠州人としての進取の精神を表しています。財団では技術者交流会などの活動も行っています。

スズキ財団「第4回やらまいか大賞・特別賞、および2023年度研究助成」贈呈式(24年2月)

第4回やらまいか大賞・特別賞の受賞者と鈴木俊宏理事長(右)、鈴木修顧問(左)

トヨタ財団
トヨタ財団(小平信因会長、羽田正理事長)は、1974年10月に設立し、今年で50周年を迎えます。トヨタの自動車事業参入から40年を機に、「人間のより一層の幸せを目指し、将来の福祉社会の発展に資する」ことを期して設立されたものです。財団では、生活・自然環境、社会福祉、教育文化など、幅広い領域で時代の要請に応じた課題を取り上げ、その研究と事業に対し助成を行っているほか、シンポジウムなどのイベントも定期的に開催しています。「発明によって人類の幸福に寄与する」という豊田佐吉翁の創始者精神は、今日のトヨタの発展とともに、財団の活動に引き継がれています。

財団では新たな事業もスタートしました。人工知能(AI)などの最先端デジタル技術に関わる「先端技術と共創する新たな人間社会」、外国人材が能力を最大限に発揮できる環境づくりのための「外国人材の受け入れと日本社会」という2つの特定課題を取り上げ、助成を行っています。東京大学未来ビジョン研究センターとパートナーシップを組み、社会システム変革に向けた研究に取り組む研究者を長期にわたり支援するコラボレーションも発足。設立50周年を祝う新たな助成プログラムも始まる予定です。

トヨタ財団 23年度助成金贈呈式

トヨタ財団主催で開催したシンポジウム(23年2月)

日産財団
日産財団(久村春芳理事長)は、1973年12月、創業40周年を記念し、新たな社会的責任を果たすべく「日産科学振興財団」として設立、2011年4月に「日産財団」に名称を変更しました。現在は、人材育成を通じ、豊かな未来社会の実現を目指すことをビジョンとし、未来を担う子どもたちの能力開発の支援、未来のための教育の進化と教育者の成長への貢献、グローバルに活躍するリーダーの育成支援をしています。

主な活動のうち、「理科教育助成」では、子どもたちの能力開発支援を目的に、理科教育と科学教育に取り組む小中学校に助成しています。「理科教育賞」は、理科教育助成終了後の優秀な学校・団体を表彰する制度です。「リカジョ育成賞」は、未来で活躍する理科好き女子(リカジョ)を育てることが目的で、女子小中高生を対象に、理系分野における興味・関心の向上や能力の育成を目的とした活動を表彰しています。次世代グローバルリーダーの育成を目指す「未来のリーダー教室」では、早稲田大学と共同で、中高生向け講座の開発を進めています。教材やマニュアルの制作により、学校授業での導入も進めています。

日産財団「理科教育賞・リカジョ育成賞贈呈式」(23年8月)

日産財団「未来のリーダー教室・展開編」(23年8月)

本田財団
本田財団(石田寛人理事長)は、1977年12月、本田宗一郎氏と、その弟・弁二郎氏の寄付金によって設立されました。本田技研工業は、交通安全への取り組みを目的に、70年に「ホンダ安全運転普及本部」を発足させ、74年には、社会的な広がりを目指し、「本田藤沢記念財団国際交通安全学会(IATSS)」を設立しました。76年にはIATSSが国際シンポジウム「ディスカバリーズ(DISCOVERIES)」を開催、その反響は大きく、継続的なシンポジウムの開催が求められたことから、ディスカバリーズの運営母体として、本田財団が設立されました。

ディスカバリーズでは、地球が抱える課題とその解決の方向性の議論が行われ、79年にはエコロジーから想起される地球にやさしいという限定的な意味合いを超え、常に「人間」を大切にし「自然環境」と「人間環境」の両方との調和を目指す科学技術哲学「エコテクノロジー」を提唱。第4回「ディスカバリーズ国際シンポジウム ストックホルム1979」において、「ディスカバリーズ宣言」を発表しました。この宣言に基づき、80年には国際褒章「本田賞」を創設し、2006年には、財団設立30周年記念事業として、アジア各国の優秀な理工系の学生を対象とした「Y-E-S奨励賞」がスタートしました。

本田財団、23年度本田賞贈呈式での記念講演(23年11月)

本田財団、Y-E-S奨励賞

マツダ財団
マツダ財団(菖蒲田清孝理事長)は、世界の人々が共に繁栄を分かち合い、心豊かに生きることができる社会づくりを目指し、1984年10月に設立された財団です。『科学技術の振興』と『青少年の健全育成』の2本を柱に事業を展開しています。1つ目の『科学技術の振興』では、基礎研究および応用研究に対する研究助成や、中国地方で開催される小中高の児童・生徒を対象とした科学体験に対する事業助成を実施しています。また、広島大学などと連携し、科学するこころを養うべく、小中高生を対象に「科学わくわくプロジェクト」を行っています。
2つ目の『青少年の健全育成』では、教育現場や市民活動の活性化に役立つ研究への研究助成のほか、広島県と山口県の市民団体を対象に、青少年健全育成のための活動を支援しています。また、広島市文化財団と協働で、児童の創意工夫を育む合宿型の「感動塾・みちくさ」を開催したり、NPO法人ピピオ子どもセンターと連携し、被虐待児を支援する「スタートラインプロジェクト」を行ったりしています。さらに、若者団体の地域での活動を後押しする「若者×ツナグバ」、広島地区の大学での寄付講義、若者の未来を拓くための講演会など、幅広い活動を展開しています。

マツダ財団、大学での贈呈式

マツダ財団、市民活動と研究助成の合同成果報告会

ヤマハ発動機スポーツ振興財団
ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS、木村隆昭理事長)は、2006年11月、豊かな人間性の涵養に効果的な「スポーツ振興」と「スポーツ文化」の醸成による国家社会への貢献を目的に設立されました。スポーツに親しむ人々を増やす「スポーツ体験促進事業」と、スポーツを通じて夢や目標の実現にチャレンジする人を応援する「チャレンジ支援事業」の両事業を有機的に結び付け、未来人材成長モデルの確立を目指しています。変わらぬビジョンは、「挑戦する心が共感・称賛される社会づくりへの寄与」であり、その実現のため、夢の実現にチャレンジする人を応援しています。

スポーツ体験促進事業では、「ジュニアヨットスクール葉山」や「セーリング・チャレンジカップIN浜名湖」を開催したり、スポーツ教材の提供や体験型スポーツ教室、自然体験絵画コンテストを実施したりしています。チャレンジ支援事業では、アスリートや研究者のチャレンジを支援する「スポーツチャレンジ助成事業」と、スポーツ界の「縁の下の力持ち」を表彰する「ヤマハ発動機スポーツ振興財団スポーツチャレンジ賞」を行っています。調査研究活動も実施しています。

ヤマハ発動機スポーツ振興財団「スポーツチャレンジ助成事業」成果報告会(23年3月)

ヤマハ発動機スポーツ振興財団「スポーツチャレンジ賞」記念シンポジウム(23年6月)

このように、自動車メーカーでは、通常の事業活動のほかにも、より良い社会を実現するための活動を行っています。これからも各社の財団活動に期待してください。

関連リンク

2022/02/04 日本の自動車メーカーによる #SDGs の取り組み