多様性が強み!外国人も働きやすいモビリティ産業

モビリティ産業は世界中に生産や販売の拠点を持つグローバル産業です。働く人たちの国籍や人種もさまざまで、性別、宗教、価値観、障がいの有無に関わらず、多様な人たちが活躍しています。3月21日の「国際人種差別撤廃デー」に合わせ、外国人も働きやすい職場環境づくりを進める企業を紹介します。

日産自動車
日産自動車は、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI、多様性・公平性・受容性)を重要な経営戦略と捉え、20年以上前から多様な人材の活躍を推進してきました。その中の一つが外国籍人材の活用です。DEI推進室課長の前多裕美さんは、「外国籍の人材は日産にとって当たり前の存在」と、多様な国籍の人材が同じ場所で働く企業風土が日産に根付いていると話します。

国内における管理職に占める外国人の比率は5.8%(2023年3月現在)、役員に限定すると、46.2%(同7月1日現在、会社法に基づく役員(取締役、執行役))に上ります。国籍を問わず、優れた人材が企業運営の中核を担っていくという企業風土がこの数字に表れていると言えるでしょう。

日産自動車の前多裕美さん

文化が異なる人材が連携し、従業員の力を最大限に発揮してもらえるよう、会社側のサポートも充実させています。DEIを学ぶeラーニングや海外事業所との人材交流などに加え、今年からDEIを推進するボトムアップの活動として「従業員リソースグループ」を立ち上げました。これは、社員が共通の関心のもと形成するネットワークで、最初は、マルチカルチャー、ジェンダー、育児両立、LGBTQ+の4つの従業員リソースグループが始動しました。この中の「マルチカルチャー」というグループは、国籍や文化的背景・語学力に関係なく一人ひとりが能力を発揮できるよう、職場での文化的多様性とインクルージョンを推進しています。

外国人の活躍推進を今後も継続していく一方、ジェンダーダイバーシティの観点で日産が2004年から力を入れているのが女性活躍です。外国人同様、女性管理職の比率も日本企業の中では高い水準にある日産ですが、前多さんが課題意識を向けるのは、「女性管理職の比率と間接従業員に占める女性比率にギャップがあること」です。 2023年3月時点で女性管理職比率は10.4%ですが、この比率を間接従業員に占める女性比率19.8%に近づけることを目標に掲げています。将来的には、更なる女性管理職比率の向上のため、母集団となる間接従業員に占める女性比率を30%レベルに高めるべく、女性社員の積極的な採用と育成を促進していきたいと話します。

「外国籍の人材は日産にとって当たり前の存在」と話す前多さん

女性管理職の比率向上へ、23年度には新しい取り組みを始めました。例えばキャリア・ビルディングのe-learningや社外キャリアコンサルタントが伴走して本人が主体的にキャリアを構築していく「セルフキャリアドッグ」です。これは、女性管理職のモチベーション向上はもちろんのこと、キャリアデザインスキルを身に着けてもらうための取り組みです。

一方、男性育休の推進にも力を入れています。以前は育児休職する女性向けに、「プレママセミナー」という研修を実施していましたが、現在は「プレパパママセミナー」とし、男女ともに育児と両立しながらキャリアをどう形成していくかについて先輩社員の経験から学ぶ場へとセミナーの内容も変わってきています。

日産がDEIに取り組むのは「モビリティへの多様なニーズに対応する商品とサービスの提供につながる」(前多さん)と考えているためです。長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」では、これまでのビジネスモデルを脱し、新しいビジネスを育てていくためには「これまでと異なるスキルセット(経験・能力・資質などの組み合わせ)を持った人材が欠かせない」(前多さん)とし、今後も多様な人材の活躍を推進していく考えです。

三菱ふそうトラック・バス
ドイツのダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスでは、国内で働く外国籍従業員の比率が、23年末に10%を超えました。人事担当常務の河地レナさんは、「三菱ふそうの本社は日本にあるが、会社内は外国でもある」と、外国人の多い同社特有の雰囲気を表現します。河地さんは、3年前に三菱ふそうに入社しました。「入社当時、ここまでグローバルなのかと驚いた」と振り返ります。

三菱ふそうトラック・バスの河地レナさん

同社で外国籍従業員が増え始めたのは05年からです。独ダイムラーの傘下に入ったことがきっかけとなりました。10年頃までは、ダイムラーからの駐在員が多かったといいますが、その後、インターンシップ制度の拡充などにより、日本での採用が増えました。本社勤務の部署に加え、ディーラーでメカニックとして勤務する特定技能実習生も多くなっています。河地さんは「多様性が会社を強くする。互いにコミュニケーションを取り、交流を深めることで、シナジーが発揮される」と、その効果を語ります。

同社で働くヴァルテルスピレール・アルノーさんはフランスの出身です。大学などで日本語やビジネスマネジメントを学んだ後、12年に来日。フランス系物流会社での勤務を経て、16年4月に三菱ふそうに入社しました。現在は、商品・経営戦略本部の小型トラック商品プロジェクト部に所属しています。

三菱ふそうトラック・バスのヴァルテルスピレール・アルノーさん

アルノーさんは、三菱ふそうについて、「社員のために、率先して動く会社」と話します。従業員の意見を聞き、満足度を上げるための改善を、常に実施しているからです。上司と気軽に話せる職場環境も、アルノーさんにとって、働きやすさの一つだといいます。「マネージャーや部長とオープンに話ができる。この点が、個人的には最も重要」と話します。教育も充実しており、「自分が伸びるチャンスが多い会社」だと話します。

河地さんは、同社が多くの外国人に選ばれる理由について、「クリティカル・マス(集団の中で一定以上の割合)がいること、柔軟な働き方ができること、能力主義であることの大きく3つの理由がある」と説明します。働き方では、早期に在宅勤務やコアタイム無しのフレックス制度を導入し柔軟な働き方を実現しました。さらに、成果主義の評価を取り入れたことで、多様な人材が能力を発揮できる環境が生まれました。これらの取り組みは、「上司が外国人になることで、部署や会社が変わったこと」(河地さん)が後押しになったといいます。

多様性には良い面がある一方で、さまざまな意見が出るため、「意見をまとめ切れないといった弱み」(河地さん)もあるといいます。この弱みを強みに変えるために必要なのは、「互いのリスペクト」と河地さんは強調します。同社は、互いを尊重し合う企業文化をつくり、どんな意見も受け入れ、国籍に関係なく働きやすい環境を実現してきました。河地さんは、「日本人にはない、さまざまな意見が集まることによって、将来の会社の成功につながる」と話しました。

UDトラックス
UDトラックスは、11年にDE&Iの活動を開始しました。以来、多様性を尊重し、多様な意見や個性を受容する企業文化の構築に力を入れています。人事制度も在宅勤務制度やコア無しフレックス制度、時短勤務の導入など、誰もが働きやすい職場環境づくりを推進しています。

ベネデッタ・ダルモンテさんは、スウェーデンのボルボグループに15年に入社して以降、人事の仕事に携わっています。UDでのプロジェクトで20年3月に来日。「人が優しいUDの文化が好きになった」と、半年間のプロジェクト終了後も、日本での勤務継続を希望し、現在はUDの人事部門で、DE&Iを推進するHRピープル&カルチャーのダイレクター(部長)としてチームをけん引しています。

「多様性のある会社はパフォーマンスも良い」と話すUDトラックスのベネデッタ・ダルモンテさん

UDでは、外資系企業の傘下だった07~21年の間に外国籍の従業員が増えました。今ではグローバルで34%、日本で11%が外国籍従業員です(24年1月末現在)。ベネデッタさんは、「多様性のある会社はパフォーマンスも良いという結果が出ている。社会の変化に対応できる商品をつくっていくためにも、多様な視点を取り入れたい」と話します。

ベネデッタさんに誘われ、HRピープル&カルチャーに移ったという柳原沙耶子さんは、08年の入社時から人事に携わってきました。人事制度面で大きく変わったと感じているのは、「人にフォーカスした制度に変わったこと」だと言います。例えば、従業員の職務を辞令で任命するのではなく、グローバルで公募する「ジョブポスティングシステム」が導入されたことです。「誰もが自立的に次のキャリアを選び成長できる。人のために良い環境や魅力的なビジョンを提供していく姿勢に会社が変わった」(柳原さん)といいます。

「受容の気持ちが大事」と話すUDトラックスの柳原沙耶子さん

一方、多様性を機能させるには、「受容(インクルージョン)の気持ちがとても大事」(柳原さん)とし、そのための仕掛けも行っています。多様性・受容性そして公平性を継続的に学ぶ「DE&Iウィーク」や、毎年3月8日の「国際女性デー」にちなんだイベントの開催、海外の新卒社員を日本に呼び、日本を知ってもらうといった取り組みです。

お昼休みなどの時間を使った「ランゲージカフェ」というイベントもその一つです。日本語、英語、スペイン語、そして手話を従業員同士で学び合います。「現場の人も、オフィスの人も参加し、いろいろな文化を持った人が顔を合わせ、一緒に取り組める場」(ベネデッタさん)になっています。

まだまだ課題は多いと言いますが、ベネデッタさんは、「企業文化が変化するのには時間がかかる」とし、自身も「これからもチームから学び、自分を高めたい」と話します。柳原さんも、「多様性と公平性、受容性によって企業文化が進化し、ビジネスでより良い結果を出せるようにサポートしていきたい」と抱負を語りました。

ヤマハ発動機
ヤマハ発動機では、国境を越えて人材を適材・適所に配置する新たな人事異動制度を2020年に導入しました。海外拠点から日本へ、海外拠点から別の海外拠点への異動を活発化し、多様な人材が能力を十分に発揮できるようにすることが目的です。

新制度を担当する人事総務本部グローバル人事部ピープル&カルチャーグループマネージャーのボヤン・ディモフさんは、「これからグローバルな考え方でガバナンスやビジネスオペレーションを考えていく上で、タレント(人材)もマインドをはじめとし、能力・スキルをグローバルレベルに引き上げていく必要がある」と、新制度導入の背景を説明します。ディモフさんは前職の外資系コンサルティング会社で海外企業を多く見てきた経験から、「ヤマハ発動機だけでなく、日本の大手企業はグローバルなアプローチをしないと、海外企業に追い付いていけなくなる」とし、企業としての競争力を引き上げていく上でも、グローバルな人の異動は欠かせないと言います。

ヤマハ発動機のボヤン・ディモフさん

これまで同社では、本社のスキル・知識やノウハウの取得を目的に海外のグループ会社の社員を短期で受け入れてきました。しかし、これらは特定の事業や機能分野に限られており、広く汎用的なレベルには至っていませんでした。そこで、新制度では、適用範囲をヤマハ発動機グループ全体に広げ、多様な人材が活躍できる“場”と“機会”を提供することで、グローバルなビジネスモデルを支える人材配置を可能にしました。出向先は出向者と共に働くことで新たな気づきをイノベーションにつなげ、出向者は出向先でスキル・知識、ノウハウを得ることで本人の成長につなげる。そして帰国後、出向者が出向元にスキル・知識、ノウハウを受け伝えることで出向元の底上げに貢献する。この制度を通じ、関係するすべての人たちに相乗効果が生まれることを期待しています。

一方、海外赴任にはいろいろなハードルがあります。言葉や生活習慣など、慣れない外国での生活には不便がつきものです。また、新制度を利用した異動を活発化するには、「会社と出向者の双方にベネフィット(利益)がある制度であることが大切」とディモフさんは言います。新制度では、出向者のベネフィットとして、帰国後のキャリアップアップを提示しています。実際、すでに3年間の赴任を終え、自国拠点で拠点長に昇進した人もいます。

新人事異動制度の参加者を増やしたいと語るディモフさん

新制度を活用した異動の実績は導入時に目標としていた 15件を、年内に達成できる見込みです。これまでに台湾・オーストラリア・インドネシア・フィリピン・中国から、日本や他の海外拠点への出向がありました。日本への出向が最も多いと言いますが、中には海外から別の海外へというケースもあります。コロナ禍が収束したことで、新制度を活用したグローバルな異動は、これから本格的に増える見通しです。ディモフさんは、「新制度の利用者の拡大に向け、今まで以上に海外拠点の人事を巻き込みながら推進していきたい」と意欲を示しました。

各社は人事・労務制度の改善、教育の充実、コミュニケーション機会の創出などにより、国籍や性別などを問わず、誰もが働きやすい職場環境づくりを行っています。こうした取り組みを通じた人財の多様化は、世界中にユーザーを持つモビリティ産業の競争力向上に欠かせないものです。多様な人財が活躍するモビリティ産業には、世界を舞台にしたさらなる成長への期待がかかります。

関連リンク

2023/03/08 多様な人財こそ財産!自動車メーカーのダイバーシティ&インクルージョン