- 2024/06/07
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「海のモビリティ」担う自動車メーカー
日本の自動車メーカーは、二輪車や四輪車だけでなく、マリン分野のモビリティも提供しています。船舶用エンジンをはじめ、舟艇、水上バイクなど、幅広い領域で存在感を発揮しています。今回は各社のマリン事業をご紹介しましょう。
いすゞ自動車
いすゞ自動車はトラック用エンジンをベースにマリン用ディーゼルエンジンを製造・販売しています。その始まりは、1947年に創業し、高速船舶用機関開発と販売を始めた「東京ボート」です。72年にいすゞが資本参加し、「いすゞマリン製造」に社名を変更しました。2007年には国内で初めてコモンレール式船舶用エンジンを開発しています。13年には、現在の「いすゞ自動車エンジン販売」となり、いすゞグループ内の産業エンジン販売事業を統合しました。翌年には、コマツディーゼルからマリン事業を譲り受け、21年にはいすゞ・やまとエンジンとも合併。現在は、開発設計から製造・販売まで一貫したオペレーションを行う高性能マリンエンジンメーカーとして欠かせない存在となっています。
製品は小型の「UM4JB1」(最高出力67PS、排気量2.77L)から、大型の「12M140」(同1,331PS、同30.4L)までの合計13機種、およびコモンレールを採用した「UM6HK1」(同344PS、同7.79L)「UM6WG1」(同659PS、同15.6L)の2機種を展開しています。発電機セット「MGS」も9型式(出力20~120kVA)をそろえ、船舶の幅広い需要に対応しています。いずれも、高出力ながら低燃費、軽量かつ耐久性に優れ、市場から高い評価を得ています。
カワサキモータース
川崎重工業は1973年、水上バイクの第1号機「JET SKI(WSAA)」の生産を明石工場で開始しました。二輪車のほかにもガソリンエンジンを動力源とした商品をつくることはできないか、という経営方針の下、71年にマリンプロジェクトチームを結成。当時、マリンスポーツとして盛んだった水上スキーの楽しさを1人で味わうという発想を基に、まったく新しいカテゴリーのマリン商品を創り出しました。川崎重工の登録商標である「JET SKI」はここから誕生しました。
現在、3人乗りタイプでは、ダイナミックなデザインを持つラグジュアリーモデル「ULTRA」シリーズとエントリー向けパワフルスポーツモデル「STX」シリーズ、スタンドアップタイプでは 「SX-R」といったラインアップを揃えています。フラッグシップモデル「JET SKI ULTRA 310LX」は、最高出力300PSを発揮する排気量1,498ccスーパーチャージャー付エンジンを搭載するとともに、4スピーカーオーディオシステムやポジション調整可能シートなどを装備しています。また「JET SKI STX 160LX」は、ハイパフォーマンスなエンジンと操作性の高いハル(船体)の組み合わせで定評がある「STX 160X」に、オーディオシステムなどの装備を搭載しました。「JET SKI SX-R 160」は、パワフルながら扱いやすいエンジンと自在に操れるハンドリングの良さを特徴としています。
スズキ
スズキは1965年2月、高塚本社工場でスズキ初の船外機「D55」の生産を開始しました。79年に旧豊川工場、2018年に湖西工場に生産場所を移し現在に至ります。海外では1999年にタイ子会社のタイスズキモーターで生産を開始し、信頼性の高さで世界各国・地域の顧客に支持されています。2022年には生産累計400万台を達成。同年にはマイクロプラスチック回収装置を搭載するモデルの生産を開始するなど、環境問題にも積極的に取り組み、小型電動船外機のコンセプトモデル「Small e-outboard concept」を提案しています。
現在は大型から小型まで、39機種をそろえています。V型6気筒エンジン(総排気量4,390cc)を搭載した大型船外機「DF350A」は、スズキの船外機としては初となる12.0の高圧縮比により、シリーズ最大の350PSを実現しました。4気筒エンジンを搭載した「DF200A」(最大出力200PS、総排気量2,867cc)は、圧縮比を10.2に高めることにより、軽量・コンパクトなエンジンながら、優れた加速と低速トルクを実現しています。子会社のスズキマリンでは、スズキの船外機を搭載したオリジナルフィッシングボート「S17」を販売しています。幅広の船体により、安定した走行・静止性能を実現しました。
トヨタ自動車
トヨタ自動車のマリン事業は、1989年に事業化の検討を開始し、翌年にはマリン事業部企画室を設置。91年に新コンセプト・アルミ艇の試作を決定し、92年に27フィートプロト艇を完成しました。そして、97年1月、マリン事業部が独立し、同年2月に同社初のプレジャーボート「PONAM-28」を発表しました。さらに99年2月に「PONAM-37・26S・26F」を発売し、2000年8月に販売累計100隻、21年に1,000隻に到達しました。
現在はスポーツユーティリティクルーザー「PONAM-31」(全長10.57m、12人乗り)、プレミアムスポーツクルーザー「PONAM-28V」(同9.14m、12人乗り)、LEXUSブランドのラグジュアリーヨット「LY680」(同20.66m、15人乗り)をそろえています。PONAM-31は「スピード」「乗り心地」「居住性」のすべてにこだわり抜いたクルーザーで、上質なソファを配置したキャビンも備えています。LY680は、19年に世界初披露したLEXUS初のラグジュアリーヨット「LY650」の一部改良モデルとして、今年3月に発表しました。LEXUSのデザインフィロソフィーを表現し、あらゆる点に徹底的にこだわり抜く「CRAFTED」の思想を具現化したフラッグシップ艇です。
本田技研工業
本田技研工業は1964年、4ストロークエンジンで船外機の世界に参入しました。軽量・廉価な2ストロークが主流の時代に、環境性能にこだわり、4ストロークを選択しました。「水上を走るもの、水を汚すべからず」という創業者である本田宗一郎氏の船外機に対する考え方に基づくものです。これまでにフィッシングやクルージングなどのプレジャー用途から、漁業・観光・海上保安などのプロフェッショナル用途まで、世界中のさまざまなニーズに応えるため品ぞろえを拡大してきました。
製品は小型・中型・大型の全24機種をそろえています。小型船外機「BF2」(定格出力2PS、総排気量57cc)は、クラスで唯一、空冷エンジンを搭載。釣りやアウトドアレジャーに手軽に使える船外機として、国内外で幅広い支持を得ています。また今年2月にはV型8気筒エンジン(最大出力350PS、排気量4,952cc)を搭載したフラッグシップモデル「BF350」の販売を開始しました。専用設計の新エンジンにより、高い走破性と静粛性・低振動を実現するとともに、クラストップレベルの燃費性能を達成しています。船外機の電動化にも挑戦しており、昨年8月から、松江城(松江市)の堀川遊覧船で「小型船舶向け電動推進機プロトタイプ」の実証実験を推進し、この4月から電動遊覧船2艘で定期運航を開始しました。
ヤマハ発動機
ヤマハ発動機は、船外機、舟艇、水上バイクと、幅広いマリン製品を展開しています。二輪車用エンジンの技術を応用した初の小型船外機「P-7」を1960年に発売。その後、用途や使用地域に応じて品ぞろえを拡充し、2022年に船外機の累計生産台数が1300万台を突破しました。同年には電動推進ユニットとステアリングシステムなどを統合した操船システム「HARMO(ハルモ)」の販売を欧州で開始しました。
舟艇事業は1960年にFRP(繊維強化プラスチック)製ボートの生産・販売を開始したことが始まりです。現在は漁船や和船、大型クルーザー、フィッシングボートまで扱うフルラインメーカーとなっています。同社が輸入・販売を行うフランスの高級ヨットブランド「PRESTIGE」から、今年6月にフラッグシップの大型艇「PRESTIGE M48」の販売を開始しています。明るく洗練された広大な居住空間により、究極の快適性を提供します。
水上バイクには1986年に参入しました。最初の製品「MJ-500T」を同年に発売。以来、舟艇の技術で培った凌波性・安定性に優れる船体と、二輪車・マリンエンジンの技術による小型・軽量・高出力エンジンの組み合わせにより、多くの顧客を獲得してきました。ラグジュアリーモデル「Wave Runner FX Limited SVHO」は、超軽量素材を採用した高性能ハルと、SVHO(スーパーヴォルテックスハイアウトプット)エンジンの組み合わせにより、高いスピード性能と安定性を実現しています。
趣味の釣りや水上バイク、遊覧船、ひいては遠洋漁業や国際的な海上輸送など、日本の自動車メーカーは、陸だけでなく世界の海でも活躍しています。「世界海洋デー」は世界で共有する海や、個人個人の海とのつながりに思いをはせ、海が私たちの生活に果たす重要な役割や海を守る大切な方法についての認識を高めるとのコンセプトで制定されました。これからも海を大切にしつつ、快適な生活や経済発展に貢献していきたいものです。
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