今さら聞けないシリーズ「駆動方式の違いと特徴/車の足回り」

クルマには、いろいろな種類があります。SUVやセダンといったスタイルの違いをはじめ、乗用車や商用車などの使用目的をもとに、いろいろと分類できます。その分類方法の一つが「駆動方式」です。「どこの車輪にエンジンやモーターの力を伝えてクルマを走らせる(駆動する)のか」という仕組みを知ると、より安全で快適なドライブを楽しむことができます。とくにこれからの季節、降雪の多い地域にお出かけになる際、「タイヤチェーンは前後どちらのタイヤにつけるべきか」などの参考にもなると思います。

基本は3種類

駆動方式は大まかに分けると、後ろのタイヤでクルマを走らせる「後輪駆動」(リアホイールドライブ、RWD)、前のタイヤで走らせる「前輪駆動」(フロントホイールドライブ、FWD)、そして前後すべてのタイヤを使う「四輪駆動(通称”四駆”)」または「4WD」、「4×4(フォー・バイ・フォー)」とも呼ばれます。なお、タイヤが4本しかない乗用車でも、タイヤが6~8本もある大型トラックでも、全てのタイヤを駆動するという意味で「全輪駆動やオールホイールドライブ(AWD)」などと呼ぶこともあります。

主な駆動方式

エンジンの置き場所

クルマの種類は、駆動方式とエンジンの置き場所・置き方の組み合わせによって、さらに細かく分けられます。駆動方式とエンジン位置の組み合わせは、操縦性やキャビン(室内)の広さなど、クルマの基本特性を決定する重要な要素となります。それらの特徴を説明します。

1つ目は、エンジンをキャビンの車両前部に縦に置き、後輪を駆動する「FR(フロントエンジン・リアドライブ)」です。駆動する車輪とステアリング(クルマの進む方向を操る装置)につながる車輪を別々にできるため、操縦フィーリングが良いことが特徴です。トヨタ86」など走りを優先するモデルや、レクサスLS」のような高級車に多いタイプです。

フロント(写真手前)のエンジンからの出力を、中央のプロペラシャフトを介して後輪(上)に伝えるFR方式。トヨタ「GR 86」

2つ目は、エンジンを車両前部に横に置き、前輪を駆動する「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」です。駆動する車輪とステアリングにつながる車輪が同じ車輪になるため、使用する部品の数を少なくできます。このため、コスト削減を図りやすいこと 、FRよりもキャビンのスペースを広く取ることができるといったメリットがあります。トヨタ「ヤリス」や本田技研工業フリード」、軽自動車のスズキスペーシア」、ダイハツタント」など、数多くのモデルに採用される、現在主流の構造です。

FFは駆動と操舵を同じ車輪が担うため、数十年も前には操作フィーリングが悪い、ステアリングが重いなどの弱点が指摘されていました。しかし技術の進歩もあって、こうした課題は解決されました。

小さな車でもキャビンを広く作れるFFレイアウト

3つ目はエンジンをキャビンと後輪の間に置き、後輪を駆動する「MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)」です。走行性能の面では前後の重量バランスに優れたクルマをつくりやすいため、F1マシンなどのレース専用車や、ホンダ「S 660」のようなスポーツカーに採用されています。

ホンダ「S 660」のMRレイアウト

4つ目はエンジンを車体の一番後ろに置き後輪を駆動する「RR(リアエンジン・リアドライブ)」です。これはエンジンなどの機器を効率的に配置できるため、FFと同様にキャビンスペースを広く取りやすいことが特徴です。ただし重量物の多くが後輪周辺にあるという特性上、まっすぐ走る時の安定性(直進安定性)が悪いという弱点があります。このため国産車では現在、もともと重量が大きくどっしりと安定しているバスなどでの採用にとどまっています。

4WDのタイプ

4WDにも、ミッドシップエンジンと組み合わせたクルマはありますが、ほとんどはフロントエンジン車となります。フロントエンジンの4WD車は「FRベース」のクルマと「FFベース」のクルマに大別できます。

4WD車では、よく「どのタイヤにチェーンを装着すればよいのか」に悩むケースがありますが、基本はベースとなったクルマの駆動輪に装着することになります。FRベース車は後輪、FFベース車は前輪ということです。4WD専用車もいくつかありますが、例えば「NISSAN GT-R」の場合は構造がFRベースのため後輪、SUBARUレイバック」はFFベースのため前輪になります。

「NISSAN GT-R」のFRベースの4WDレイアウト 右側が車両前部(前輪側)

最近の4WDは、電子制御を利用して前輪と後輪に伝える力(トルク)を自在に調整し走行性や燃費を高める機能がどんどん進化しています。トヨタ「ランドクルーザー」のような本格オフロード車の場合、以前は市街地走行時の燃費を高めたり、オフロード路面以外での運転のしやすさを確保するため、2輪駆動と4WDを切り替える機構がついていました。しかし、先に述べた通り、電子制御の進化によってオフロード車でも、切り替え機構をなくしても市街地走行とオフロードの走破性を両立できるようになったため、常に全ての車輪をまわす「常時四輪駆動(フルタイム4WD)」のクルマが増えました。

EVの駆動

電気自動車(EV/BEV)の駆動方式も、基本的にはFR、FF、4WDの3種類になりますが、エンジンに代わるモーターの搭載位置が注目ポイントになります。エンジン搭載車をベースに開発されたEVは、エンジンのあった場所にモーターを置くことになります。しかし、最初からEV専用で開発されたクルマの場合は、モーターの配置を自由にレイアウトしやすくなるので、従来のクルマの概念を打ち破るデザインの登場が期待されます。

そこで待ち望まれる技術の一つが、「インホイールモーター(IWM)」という駆動システムです。車輪それぞれの内側にモーターを組み付ける構造で、車体本体にモーターを置く必要がなくなります。これまで車体側に必要だったエンジンやモーターの搭載スペースが不要になるため、従来車とはまったく異なるデザインのクルマを作ることが可能になります。

インホイールモーター(東京大学)

路面の衝撃を直接受けるタイヤの内側・バネ下に組み込むため、高い耐久性が必要となるなど開発課題は多いですが、百数十年も続いてきた自動車の基本構造を根本から変革する画期的なシステムです。すでに大学と大手部品メーカーが共同研究の成果を発表しているほか、自動車メーカーが先行開発に取り組む事例もあり、実用化の期待が高まります。

関連リンク

今さら聞けない アーカイブ- JAMA BLOG 一般社団法人日本自動車工業会