- 2025/08/21
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自動車運搬船の舞台裏に潜入!
新車など完成した自動車を海上から国内外に大量輸送する手段として、巨大な専用貨物船「自動車運搬船」の姿をテレビのニュースなどで見かけたことのある方は多いでしょう。大手海運会社である商船三井が運航し、2024年9月に完成したLNG(液化天然ガス)燃料の自動車船「セレステ エース」は全長約200メートル、幅約40メートルもあり、高さは約50メートルとビル15階相当に匹敵します。同社は現在、グローバルに自動車メーカーのニーズに対応し、安全かつ安定的な輸送サービスをグループ100隻規模で展開しているそうです。車はできるだけ多く運ぶために前後左右で隙間なく止め、1台ごとに積み込む際には「ギャング」と呼ばれる卓越したテクニックを持つ、港湾会社の作業チームが活躍しています。今回は子供たちに人気が高いものの、普段見かけることが少ない自動車船の内部や船積み作業などについてご紹介します。
30周年を迎えた「海の日」の7月21日、記念イベントの一環として、商船三井は東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)で最新鋭のLNG燃料の自動車船「セレステ エース」の船内を公開しました。総トン数は74,000トンと商船三井の運航船隊の中では最大級です。いつも乗っている車がどのように運ばれているか、船の中でどのような人たちがどのような仕事をしているかを見学できました。船の乗務員は20人強ですが、一度に最大で自動車約7000台(小型車で換算)を積載、輸送できるといいます。この船は北米から日本に寄港し、イベント終了後には日本車などを積んで欧州へ向かいました。
多数の応募者の中から当選した小学生らと家族約600人が参加した見学会では、作業員数人が車を後退させ、〝秒単位の早業〟で横車両間隔 10センチ、前後車両間隔30センチという極めて狭いスペースに次々と並べる様子は圧巻でした。その様子に参加者からは「えーすごい!」などと歓声や拍手が巻き起こりました。イベントでは、ほかにもブリッジ(操舵室)や船員居住エリアなども見学でき、船員から詳しい説明を受けていました。
商船三井は1964年に三井船舶と大阪商船が合併したことで「大阪商船三井船舶」として誕生し、後に現在の社名に改称されました。1965年には、日本初となる自動車専用船を就航させ、急増する海外向け自動車輸出に対応。この取り組みにより、商船三井は自動車船のパイオニアとしての地位を確立しました。船に大きく記された「MOL」はMitsui O.S.K. Linesの略で、O.S.K.はOsaka Shosen Kaishaの頭文字です。当初は1200台積みで開始した自動車船ですが、近年では乗用車から建設機械まで、あらゆる自走可能な貨物を対象に設計されているのが特徴です。内部は何層もの甲板を持つ巨大な立体駐車場のような構造になっており、大型建機などを乗せる際には「リフタブルデッキ」と呼ばれる甲板の高さを変える調整もできます。最近では、太陽光発電システム、LNGを主燃料とする自動車船の採用も進んでおり、二酸化炭素排出削減など船の環境負荷低減にも積極的に取り組んでいるそうです。
商船三井の自動車船は国内港では、横浜、名古屋、広島、苅田(福岡県)をはじめとした港に寄港しており、欧州・北米・アジア・オセアニア・インド・アフリカなど世界各港に向けて運航、目的地で揚げ荷役をした後、再度積み荷役を行い、次の目的地へ運航を繰り返しています。
車の積み込みを手掛けるギャングとは、自動車船で「一連の荷役作業を実施する作業員のチーム」のことをいい、呼び名の由来に関しては諸説あるようです。ギャングは数十センチ間隔で隙間なく駐車しますが、各港で1チームは国内の積み荷役であれば約20人で構成するケースが多いそうです。積み荷役は一般的には「横持ち」と呼ばれるドライバーがヤード(岸壁)から船内の積み付け位置(その車両を駐車する場所)付近まで車両を走行させ、そこで「本付け」と呼ばれるドライバーと入れ替わります。本付けドライバーは「誘導員」による笛の音や点灯誘導棒の指示に従いながら車を操作、駐車させます。
駐車した車両は「ラッシャー」と呼ばれる作業員が船にある専用のベルトを用いて、輸送時に動かないように船体と車両間で固く縛る作業を行います。1日の荷役台数は横浜港(大黒ふ頭)で乗用車だけの積み荷役の場合、100台に1時間かかる計算で、計500~600台にも上ります。例えば1000台の車を1日で荷役しようとすれば、2ギャング(チーム)の構成が一般的です。
港湾会社のギャングチームが作業中に注意する点として、まずはケガなど人災が発生しないことが大原則だそうです。「荷役前の打ち合わせでしっかりとコミュニケーションを取る」「変更点があれば迅速、確実に作業に関わる全員へ共有する」ことなどが挙げられ、チームワークが不可欠なことが分かります。 船内火災リスクに対しても対策に取り組み、貨物各階層にAI(人工知能)カメラを設置、異常を検知して火災を早期に発見するシステムなども導入されています。
自動車船の世界運航シェアでは日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内大手3社で約4割を占めるとされ、日本勢の存在感は大きいようです。自工会の統計では、2023年は日本から輸出した四輪車は442万台に達しています。自動車船は、〝自動車輸出大国〟である日本にとって重要なインフラといえ、グローバルなサプライチェーン(供給網)においても重要な役割を担っています。
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