2050年カーボンニュートラルのシナリオを分析。脱炭素の手段が一つではないことを裏付ける結果に

日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」(CN)の達成目標を打ち出しています。この非常に難易度の高い目標に対して、自工会をはじめ自動車産業としても全力でチャレンジしています。その中で、このたび自工会ではエネルギー分野で国際的に評価の高い日本エネルギー経済研究所( IEEJ )に委託し、2050年のCNに向けたシナリオの分析結果をまとめました。その結果、電気自動車(EV/BEV)の急速な普及拡大だけではなく、ハイブリッド車(HV/HEV)やCN燃料を含めた「多様な選択肢」でも二酸化炭素(CO2)排出量の削減目標を達成し得ることが分かりました。これは「カーボンニュートラルという山の登り方は一つではない」(豊田章男会長)とする自工会の主張を第三者による定量的分析により裏付けるものです。

自工会は50年時点のEVと燃料電池車(FCV/FCEV)の比率とCN燃料の普及度合いなど条件を変えた3種類のシナリオを作成し、CO2排出量を算出しました。いずれのシナリオもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のCO2排出量削減目標を達成する可能性があることが明らかとなりました。

今回のシナリオ分析の目的はEVやFCV以外に、HVやプラグインハイブリッド車(PHV/PHEV)などの内燃機関車と、CN燃料の組み合わせも含めた多様な選択肢でも50年のCN達成が可能かを客観的かつ定量的に示すことです。世界には「EVがCN化の唯一の手段」という主張も存在します。しかし、これにはHVの燃費改善効果やCN燃料の普及可能性などの環境対策が考慮されていないのが実情です。

シナリオを分析するにあたり、前提条件としてIEEJのマクロ経済モデルやエネルギー需要モデルを踏まえ、シナリオごとの自動車販売構成に基づき最終的なCO2排出量を推計しました。世界の自動車保有台数(二輪車を除く)は20年の15億台から新興国での経済発展、人口増により50年には27億台に増え、50年のCN燃料供給量は持続可能な航空燃料(SAF)の副生産物などで20年の自動車燃料消費量の3~4割程度は供給できると推計しました。

作成した3つのシナリオは、CN燃料を積極活用するシナリオ1「CNF」、電動化を積極推進するシナリオ2「BEV75」、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオをベースとした世界全体の新車販売が完全にEV・FCV化するシナリオ3「IEA-NZE(ネットゼロ・エミッションズ)」です。また、現状のまま進むシナリオ0「BAU」も設定しました。

IPCCが発表した「第6次評価報告書」では、運輸部門で世界の気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度に抑える場合、CO2排出量を20年比で42~68%削減する必要があるという目安が示されています。今回の分析結果では3つのシナリオの全てが範囲内に収まることが確認できました。

先進国はいずれのシナリオも50年のCNに近い水準の削減が可能ですが、保有では一部内燃機関車も残るため、完全なCN化を実現するためには何らかのCN燃料が必要です。また、新興国は多くの地域で販売台数が大幅に増加します。世界全体では1.5℃と整合的ですが、個別の地域の削減幅は十分でないとの見方があるかもしれません。しかしながら、シナリオ1のCN燃料供給量を、供給可能と推計される約40%まで増量すれば、各地域においても、IPCCの1.5/2.0℃目標で必要とされる削減目標を達成する可能性があります。

今回の分析結果では、自工会が主張する多様な選択肢によるCN達成の可能性を改めて裏付ける結果となりました。また、国際自動車工業連合会(OICA)は11月14日、「グローバルな脱炭素化フレームワーク」として、50年までに道路交通の脱炭素化を達成するための技術中立的アプローチを発表しました。各国は柔軟性を持ち、現実的に最も適した政策を採用するとともに、自動車産業の競争力を確保するための産業・エネルギー政策が必要であるとしています。このように、CNへの多様な選択肢は世界の自動車業界で共通認識となりつつあります。

内燃機関車を含め多様な選択肢でもカーボンニュートラルは達成できる

自工会では、シナリオの分析結果を国際会議の場で示していきます。また、ホームページを通じた情報発信など一般ユーザーへの浸透も図るなど、引き続きカーボンニュートラルに対する正しい理解の普及に努めていきます。

関連ページ:「2050年カーボンニュートラルシナリオ」