- 2023/03/29
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9年間の集大成!SIP自動運転第2期、最終成果発表会を都内で開催
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期自動運転(システムとサービスの拡張)の最終成果発表会が、3月7、8日の2日間、東京・秋葉原UDXで開催されました。SIP自動運転は2014年度に第1期(自動走行システム)が始まり、18年度から22年度までの第2期では、「システムとサービスの拡張」をテーマに、実証実験や基盤技術の開発、社会受容性の醸成、国際連携などの課題に取り組んできました。9年間の集大成となった今回の発表会には自動車業界の関係者をはじめ大勢の人が訪れ、自動運転の最新動向に触れました。
SIPは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実世界)を高度に融合することにより、社会課題の解決と経済成長を両立する「Society5.0」を実現するための政府の取り組みです。車載や路側のセンサーで収集した大量かつ多様な情報をサイバー空間で認知し、人工知能(AI)が判断を行った上で車を自動走行させる自動運転は、まさしくSociety5.0を体現するテーマとして取り上げられました。内閣府の下で推進されたプロジェクトは、経済産業省、国土交通省、警察庁、総務省の関係4省庁が連携し、多くの企業や大学・研究機関も参加した画期的な取り組みとなりました。
~SIP自動運転シンポジウム~
最終成果発表会は、シンポジウムと展示会の構成で行われました。シンポジウムは「SIP自動運転シンポジウム」「RoAD to the L4シンポジウム」の2つのテーマで行い、自動運転のこれからを参加者とともに考えました。
盛況のシンポジウム会場
7、8日に行われたSIP自動運転シンポジウム(1~3部)には、SIP自動運転プログラムディレクター(PD)を務めた葛巻清吾氏らが登壇しました。SIP自動運転第1期が始まった14年頃、すでに海外勢は自動運転技術の開発で先行していました。葛󠄀巻氏は、「日本はかなりの周回遅れだった。イノベーションを起こさないと海外に負けてしまうという危機感があった」と振り返りました。
葛󠄀巻清吾プログラムディレクター
莫大な投資と膨大なデータが必要な自動運転領域でイノベーションを起こすには、個社では限界があります。そこで、SIP自動運転では、「安全」を第一に取り組むべき課題と位置付け、企業ごとに開発を進める「競争領域」と、オールジャパンで挑む「協調領域」を明確にするところからプロジェクトを開始したといいます。ワーキンググループも立ち上げ、会社や立場の隔たりなく、自由に意見を言える体制をつくりました。
・第1期の大きな成果「ダイナミックマッププラットフォーム」の設立
それでも、「最初はうまくいかなかった」と葛󠄀巻氏は言います。省庁の壁や予算確保の難しさに加え、「自動車メーカーをあまり巻き込めなかったこと」が理由です。自身も官僚だった有本建男サブプログラムディレクター(SPD)は「省庁の縦割り体質は海外も同じだが、日本はそれがさらに固く、なかなか動かせない。(SIPのような組織体では)欧州だと女性が構成員の半分近くを占めるが、日本にはほとんどいないことも問題だった」と指摘します。
有本建男サブプログラムディレクター
ところが、当時の首相だった故・安倍晋三氏が、「17年までに国内で自動運転の実証実験を行えるよう法整備を進める」と宣言したことで風向きが大きく変わりました。レベル4(特定条件下での完全自動運転)以上の実現に向け、基礎研究から社会実装までを一気通貫で担うSIPへの期待が一気に高まりました。
第1期の成果「ダイナミックマッププラットフォーム」の紹介パネル
16年に国内の自動車メーカー10社や地図会社が出資する「ダイナミックマッププラットフォーム」(旧ダイナミックマップ基盤)が立ち上がり、自動運転に必要な高精度3次元地図データ(HDマップ)を提供する役割を担うことになったことは、SIPの大きな成果の一つでした。全社が同じHDマップを使うと、この領域での差別化は難しくなると反対の声もあったといいますが、「協調する領域を10分野にし、それ以外は競争領域として独自に開発してもらうことにしたことで納得してもらえた」(葛巻氏)と話します。
翌17年には大規模実証実験を開始し、19年には東京臨海部での実証で、自動車メーカーやサプライヤー、大学などが開発した自動運転車を公道で走らせました。技術開発で競い合う企業同士が同じ場所で実証実験を行うことは、SIP以外ではあまり例がありません。信号情報の取得や交通規制の生成など、自動運転社会を実現するために必要なインフラやデータ網の構築に絞って共有することで、協調と競争の領域を明確にして実証を進めました。
杉本洋一サブプログラムディレクター
世界初の自動運転レベル3を実用化したホンダ「レジェンド」
杉本洋一SPDは、SIPでの9年近い取り組みの大きな成果として、「ダイナミックマッププラットフォームの設立と世界に先駆けてレベル3を実現したこと」の2つを挙げました。一方、新たに見えてきた課題もあります。SIP創設当初から携わってきた国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の久間和生理事長は、「自動運転にはどのようなデータが必要で、それをどの分野でどう使うかを理解した上で集めないと意味がない」と話します。「価値があり、競争力を持つデータは、高価格で販売できるようにするなどし、データを提供する事業者にもメリットがある仕組みにすることが重要だ」と今後の課題を説きました。
久間和生農業・食品産業技術総合研究機構理事長
・ワンチップで自動運転が可能に
「SIPの中で育まれたものを使って、ソースコードを書かなくても自動運転の新たなコンテンツを作ることができる時代になった」と話すのは、ティアフォーの加藤真平最高技術責任者(CTO)です。ティアフォーは、原則無料で利用できるオープンソースの自動運転用OS「オートウエア」を開発した会社です。18年にはトヨタ自動車の開発子会社や半導体大手なども参画する、同OS普及のための団体「オートウエアファンデーション」に運営主体を移管し、ティアフォーは同OSの導入支援や教育で収益を得る事業を展開しています。
30年頃の本格的な普及が期待される自動運転技術ですが、加藤氏が社会実装に向けたポイントに挙げたのが半導体技術の進化と電動化です。「5年も経過すればワンチップで自動運転を実現する時代になる。(自動運転と親和性が高い)EV(電気自動車)の量産を進めることも重要だ」と語り、今後の方向性を示しました。
また、自動運転開発を加速する海外のテックカンパニーに比べ、「日本は自動運転のエンジニア不足が課題。少なくとも1万人は育成する必要がある」と述べ、オートウエアを活用し、日本の開発力強化に貢献する考えを強調しました。
・AIに対する受容性も課題
自動運転車の開発で今、最も注目されている企業の一つが、ソニー・ホンダモビリティです。センサーやエンターテインメントの知見を持つソニーグループとホンダが組み、既成概念にとらわれない新しいモビリティの開発を目指しています。25年に最初のモデルを発売する予定です。
加藤真平ティアフォーCTO(右)と川西泉ソニー・ホンダモビリティCOO(中央)
同社の川西泉最高執行責任者(COO)が目指す自動運転車両の姿は、「目と耳だけで動く人間のような車」だと言います。自動運転には、外部の機器や情報に依存せず自律走行する方法と、インフラ側の情報や機器と協調制御する方法があります。それぞれに課題はありますが、インフラに依存する方法では、自動運転を利用できる人や地域が限定される可能性があります。同社は自律型の自動運転を目指すとしています。そのために最も重要なのが「周囲の認識」(川西氏)であるとし、ここにソニーのセンサー技術を生かす方針を示しました。
自動運転の社会実装に向けては、人工知能(AI)に対する倫理観や受容性の醸成という課題もあります。川西氏は「出来たのでどうぞ、と言われて使うほど、人はAIや自動運転を信頼していない。『チャットGPT』(自然言語生成AI)が注目されているが、一方でAIが危険という認知も広がっている」と話しました。受容性の醸成については、「1社だけではなく、複数の企業や機関が開発に携わること」をユーザーの信頼獲得に向けたポイントに挙げました。
~RoAD to the L4シンポジウム~
8日に行われたRoAD to the L4シンポジウム(第1、2部)では、国立研究開発法人産業技術総合研究所の横山利夫プロジェクトコーディネータが登壇し、「自動運転の実現は、その地域に住む住民の要望を踏まえて推進していくことが重要」と話しました。RoAD to the L4(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト)は、経済産業省が21年に始めた自動運転レベル4の社会実装を目指すプロジェクトです。25年度までに全国40カ所以上でレベル4の自動運転サービスを導入する目標を掲げています。
・町長の強い危機感で推進~茨城県境町
同シンポジウムでは、レベル4の実装に向けて取り組んでいる先進的な自治体の事例も紹介されました。「町長の強いリーダーシップで一気に進んだ」と担当者が成功の秘訣を話すのは茨城県境町です。鉄道、バスともに町内には交通手段がほとんど無く、「90歳を超えても運転をしなければ生活できない」という状況に危機感を覚えた橋本正裕町長が先導し、20年に自動運転の実証実験を開始しました。5年間で2億円という財源を確保し、市内の中心街にある商店街でレベル2(特定条件下での自動運転機能)相当の自動運転バスを走行させました。
自治体の取り組み事例も紹介
当初、ステーションの数は始点と終点の2カ所のみでしたが、地域住民の協力を得て、私有地内にステーションの設置を進めました。病院や塾、商業施設などニーズが高い場所同士を結んだことで、今年3月時点で累計1万4千人が乗車し、経済効果は約7億円に達したと言います。
・ワークショップで不安解消~新潟県佐渡市
新潟県佐渡市は、地域住民の生活の足としてだけでなく、観光客向けの移動手段としての需要も見込み、観光客目線での路線の選定を行いました。観光需要が増えれば、それだけ自動運転車の走行機会も増えることになります。トラブル無く導入を進めるには、「社会受容性の醸成が欠かせない」と担当者は言います。このため佐渡市では、地域住民向けにワークショップを開き、自動運転が走る上での不安などネガティブな意見を積極的に募りました。その上で、試乗会や説明会を都度、開催し、不安要素を一つずつ取り除いていったと言います。
・住民参加型でコストダウン~長野県塩尻市
25年頃にレベル4相当の自動運転車の走行を目指す長野県塩尻市は、「実証を終え、実際に導入されたときを今から想定しておく必要がある」(担当者)と先を見据えています。塩尻市が現在、実施している実証実験は「1週間で2千万円近くかかる」という重いコスト負担がネックになっていると言います。今は政府の補助金を充てていますが、コスト低減は社会実装する上で不可欠です。
そこで塩尻市では、主婦や高齢者といった地域住民をDX(デジタルトランスフォーメーション)人材として育成し始めました。「最初は皆、パソコンも触れないような素人だったが、今ではノウハウが身についてきた」と可能性を見出しています。運営のオペレーションを住民に任せることで、運営費をかなり抑えられると言います。
・都市で導入推進 用途拡大も~愛知県
都市部で自動運転車の導入を目指しているのは愛知県です。22年度は名古屋駅や中部国際空港周辺を含む3カ所で実証を行いました。「3、4車線ある名古屋駅周辺の道路や、横風が強い空港用道路など、さまざまな状況に合ったシステムの導入を目指している」と担当者は言います。自動運転車を単なる移動手段としてだけではなく、ビジネスパーソン向けに〝動く会議室〟として貸し出したり、子ども向けのイベントを車内で開催したりと、用途の拡大も検討していくといいます。
・通常のバス運行ルートで走行~栃木県
栃木県はこれまで県内10地域で自動運転プロジェクトを実施してきました。従来は自動運転バス専用ルートを設置していましたが、23年度からは通常のバスが運行しているルートで実証走行を始めます。多くの住民が乗ることになるため、「体験機会を早めに設け、不安を払しょくするようにしている」といいます。実際、乗車前に「自動運転車に乗るのが不安」と回答して人は全体の4割以上を占めていましたが、乗車後は1割程度に減ったと言います。
~映像、パネル、実車で成果を紹介~
展示会では、葛󠄀巻PDのメッセージビデオが来場者を出迎え、自動運転が目指す社会とはどのようなものか、その実現に向けSIP自動運転では、どのような取り組みを行ったのかを、パネル展示や映像、実際の実験車両の展示で紹介しました。
展示会の入り口には9年間の主な出来事を振り返る写真
葛󠄀巻氏のビデオメッセージで来場者を出迎え
来場者で賑わった展示会場
・東京臨海部で実証実験 中山間地域では社会実装
自動運転の目的は、交通事故の撲滅、交通渋滞の解決、過疎化対策、ドライバー不足、移動の自由確保といった社会課題の解決です。SIP自動運転では、プロジェクトの役割を「協調領域」と定め、自動運転の社会実装をゴールとして技術開発、国際連携・標準化、社会的受容性の醸成、規制改革・制度整備に取り組んできました。
第2期は、実証実験、基盤技術開発、社会的受容性の醸成、国際連携強化という4つを柱として取り組みました。このうち東京臨海部を使って行われた実証実験では、カメラやレーダーなどの車載側センサーの情報に、高度3次元地図や信号、渋滞、障害物などの交通環境情報を組み合わせ、より高度な自動運転を実現するための実験を行いました。
東京臨海部での実証実験を紹介
臨海副都心では一般道での自動運転、首都高速道路では高速道路や自動車専用道路での自動運転、そして羽田空港周辺ではバスの自動運転実証実験を行いました。実験には国内外の数多くの企業、大学、研究機関が参加し、総走行距離12万キロメートルの実験を無事故・無違反で終えました。展示会の会場には、実際に走った車両も展示されました。
実証実験の走行車両の一部
中山間地域の移動の課題を解決するため、自動運転車の社会実装も行いました。レベル2相当のカートタイプの自動運転車を使い、秋田県上小阿仁村、滋賀県東近江市、島根県飯南町、福岡県みやま市の4カ所でサービスを始めました。山形県高畠町では、長期実証実験を行いました。会場にはサービスに使われた車両も展示され、来場者が乗り込んでいる姿も見られました。
中山間地域では自動運転車を社会実装
・仮想空間での安全性評価プラットフォームを事業化
自動運転車の開発には、安全性の確保が欠かせません。第2期では、仮想空間で自動運転の安全性を検証できる安全性評価用環境プラットフォーム「DIVP」を開発し、22年度に「V-Drive Technologies」を設立して事業化しました。また、交通環境データを使った新たなサービス創出のための交通情報ポータル「MD communet」や、ハッキングなどの脅威から車を守るためのサイバーセキュリティー、自動運転から手動運転に安全に移行するためのドライバー監視技術など、自動運転に欠かせない基盤技術の展示が来場者の関心を引いていました。
第2期には安全性評価用環境プラットフォーム「DIVP」を開発・事業化
DIVPの開発で使用した車両
交通環境情報ポータル「MD communet」の紹介パネル
SIP第2期の期間中には、世界初の自動運転レベル3の車両、ホンダ「レジェンド」が実用化されたほか、道路交通法や道路運送車両法といった関係法規も自動運転の高度化に合わせ改正され、自動運転社会の実現にまた一歩近づきました。9年間にわたる取り組みの成果は、経済産業省と国土交通省のRoAD to the L4やSIP第3期「スマートモビリティプラットフォームの構築」に引き継がれます。SIP自動運転は終了しますが、自動運転社会の実現に向けた取り組みは今後も続いていきます。
自動運転社会の実現へ、SIP自動運転の成果が引き継がれる
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