- 2024/05/15
- CASE, JAMAGAZINE, 自動運転
国内初!永平寺町でレベル4自動運転移動サービス
緑豊かな町道を進むのは、運転席に誰もいない自動運転車両です。福井県永平寺町で2023年5月、国内初の自動運転レベル4(特定条件下における完全自動運転)での移動サービスが始まりました。同町から運行を委託された「まちづくり株式会社ZENコネクト」がサービスを提供しています。
永平寺町は道元禅師が開いた禅の修行道場である大本山永平寺や吉峰寺、国指定史跡の松岡古墳群など、歴史的な文化遺産が集積しています。北陸新幹線の福井までの延伸により、首都圏からの観光客も増えています。一方、町の人口は2000年をピークに減少傾向が続いており、それに伴い公共交通も縮小しつつあります。高齢化が進む過疎地域として、移動手段の確保が課題になっていました。
政府はレベル4の自動運転サービスの社会実装を見据え、21年から「RoAD to the L4(ロード・トゥ・ザ・レベル4)」プロジェクトを開始し、全国4地域で実証実験を行ってきました。20年4月には道路運送車両法が、また、23年4月には道路交通法が改正され、レベル4での公道走行が解禁になったことを受け、永平寺町は課題解決の手段として同年5月に初の自動運行装置(レベル4)認可を取得したのです。
サービスが利用できる区間は、京福電気鉄道永平寺線の廃止区間の廃線跡を活用した町道「永平寺参(まい)ろーど」の約2km、「荒谷」停留所から「志比(永平寺門前)」停留所までです。歩行者や自転車も利用するルートをヤマハ発動機製の電動カートをベースとした自動運転車両3台を導入しています。
導入された車両はカメラやミリ波レーダーなどを備えており、自動運行装置「ZENドライブパイロットレベル4」が車両の周囲の状況を判断し、出発や停止、緊急時の自動停止などを行います。また、同町の自動運転サービスは過疎地での運用を想定したモデルケースであり、道路上に敷設した電磁誘導線や、電波を用いて無線でデータの読み取りを行うRFIDにより、経路を特定しながら走行することで、天候や衛星通信環境の影響を受けにくく、安定して使える技術を使用していることが特徴です。
「荒谷」停留所の近くには遠隔監視室が設けられており、特定自動運行主任者が遠隔監視装置の作動状態の確認などを担っています。遠隔監視室には、加えて緊急時の駆け付け対応などを行う現場措置業務実施者の計2人が配置されています。
16年に自動運転の国事業への申請を行い、18年から実証に取り組んできた同町の河合永充町長は、「技術の進歩には感慨深いものがある」と語ります。「レベル3(条件付き自動運転)」の実証時には、コロナ禍で多くの乗客を乗せることが難しい時期もありましたが、困難な時期を乗り越え、サービス化しました。
政府は25年度をめどに50カ所程度、27年度までに100カ所以上で自動運転サービスの実証に取り組む考えです。国内では今後、高齢化や過疎化などにより、移動困難者の増加が危惧されています。実際、バス路線の赤字を自治体が補填することで、辛うじてサービスを継続していたり、運転手不足によりバス路線が廃止になったりするなど、公共交通は岐路に立たされています。自動運転はこうした問題の解決策として期待されます。サービスの普及には、社会受容性の醸成も重要ですが、同町では長年、地域住民への説明会や試乗会といった理解活動を進め、レベル3までの運行では、児童の下校時に自動運転車両を利用する取り組みも行ってきました。
一方で、河合町長は「地方の公共交通において、採算性とは何かという問題もある」と指摘します。コミュニティーバスの運行には年間4千万~5千万円かかるといわれますが、地域の高齢者の生活を支えるには必要なサービスです。自動運転の導入や維持にコストはかかっても、人手不足に備えて既存のサービスを自動運転に切り替える地域が増えれば、導入コストの低減も期待できます。
順調にサービスを実施していた同町ですが、23年10月に自動運転車両のバンパーと無人の自転車のペダルが接触する事故が発生しました。負傷者はおらず、物損もありませんでしたが、原因究明と対策のため、同町は運行を中止しました。12月から24年2月の冬季運休期間を経て、3月16日からは、改良した体制のもと、定時運行を再開しています。
事故の原因として、大きく2点が挙げられます。1点目は、現場となった自動運転車両がすれ違うための待避所付近では、車両同士のセンサーの干渉を抑制するため、ミリ波レーダーとソナーによる自動ブレーキがかからない仕様となっていたことです。そのため物体を検知したにもかかわらず、車両の停止には至りませんでした。2点目は、待避所付近では前方カメラの映像から物体を認識し自動ブレーキをかける仕様になっていたものの、今回接触した無人の自転車を「停止すべき障害物」として認識できなかったことです。
再発防止策として、待避所付近でもミリ波レーダーとソナーの検知で自動ブレーキがかかる仕様に変更したほか、無人の自転車の画像をシステムに追加学習させることで認識性能を向上させた、ということです。また、自動ブレーキの精度改善につながるデータを収集するため、当面は補助員(記録員)が車両に乗車します。
無人の自転車との接触という想定外の事故に直面したものの、自動運転サービスが交通インフラの課題を解決する手段として期待されることに変わりはありません。同町は「引き続き運行の安全性と快適な乗車環境の向上について、関係者と連携して取り組んでいく」としています。
同町では、今後もZENコネクトと共にサービスの拡充に努めながら、各地からの視察も受け入れることで、全国での社会実装に貢献していく構えです。
自工会及び会員メーカー各社は持続的なモビリティ社会の実現のため、自動運転技術や運転支援技術の開発・社会実装を推進しています。
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