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#カーボンニュートラル 日本が取り組むベストな選択とは

自工会広報誌「JAMAGAZINE」10月号よりピックアップ

日本をはじめ、世界各国が掲げる2050年のカーボンニュートラル。日本の基幹産業である自動車産業は、カーボンニュートラルにおいても重要な役割を担っています。一方で、ハードルの高い目標を達成するためには自動車産業の努力だけでは実現できないのも事実で、エネルギー政策と産業改革をセットで考えることが必要です。日本における正しいカーボンニュートラルとは何か。世界で戦える日本のカーボンニュートラルについて解説します。

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動力源の多様性は日本のカーボンニュートラルに不可欠(開発中のPHV)

 

国や地域で異なるカーボンニュートラル

 そもそもカーボンニュートラルとはどのような取り組みでしょうか。現在の地球が抱える最大の課題である温暖化を防ぐためには、温室効果ガスを削減する必要があります。温室効果ガスは二酸化炭素(CO2)やメタン、一酸化二窒素、フロンなどで構成されており、このうち世界全体ではCO2が76%を占めています。CO2は化石燃料の燃焼によって排出されますので、いかに化石燃料の使用量を抑制するかが地球温暖化防止の鍵を握っています。

 ただ、CO2を削減するといっても、完全にゼロにすることは現実的には難しいです。このため排出を減らすことに加えて、排出せざるを得なかった分を「吸収」したり「除去」したりする、すなわち足し算と引き算で「全体としてゼロにする」ことをカーボンニュートラルといいます。

 また、温室効果ガスの内訳は国や地域によって異なります。日本は火力発電など燃料の燃焼などによるエネルギーが多いので、CO2の割合が9割以上を占める一方で、牧畜や酪農が盛んなニュージーランドはメタンが4割以上と最も高い割合となっています。このためカーボンニュートラルの実現には、国や地域によってそれぞれ戦略が異なります。

日本のエネルギー事情

 2050年のカーボンニュートラル実現は、世界各国が掲げていますが、日本のカーボンニュートラルにはどのような取り組みが必要でしょうか。

 例えば、環境負荷のない再生可能エネルギーが潤沢な北欧では、エネルギー生成からカーボンニュートラルが実現可能です。このため自動車も排出ガスの出ない電気自動車(EV)に置き換えることで、CO2の排出量削減を加速させることができます。一方、日本の電力供給は火力発電が76%(2019年)と主力となっています。原子力発電はCO2を出さないクリーンなエネルギーといえますが、現代の日本において原子発電を広げていくのは難しいのが実情です。7月に公表された「エネルギー基本計画」の改定案によると、日本における再生可能エネルギーの割合は、現在18 %のところ、2030年の目標をこれまでの22~24%から36~ 38 %に引き上げ、再生可能エネルギーの利用拡大の取り組みを進めています。しかしながら国内で必要なエネルギーすべてを再生可能エネルギーで賄うことは困難といえます。

 このような状況下でカーボンニュートラルを目指すためには、EVのみならず、さまざまなアプローチで取り組む必要があるのではないでしょうか。国内の自動車市場は、世界に率先してCO2排出量を減らしてきた歴史があり、CO2を過去20年で23%削減しました。これには日本の自動車メーカーが得意とする低燃費技術やハイブリッド車(HV)の普及が大きく貢献しています。このため自工会の副会長神子柴寿昭はLCAに基づく『技術ニュートラル』という観点から解決のアプローチを議論しています」と説明します。同時に「日本の自動車メーカー各社は、既に持っている技術的な強みに大きなものがあり、電動車フルラインアップという強みを生かすことができます」とグローバルでの日本メーカーの競争力向上にもつながると指摘します。

日本でも再生可能エネルギーの導入が進むものの…

車種や使い方に適した技術を

 現在、日本政府ではカーボンニュートラルの目標として、国全体で2030年度のCO2排出量を2013年度比で46%削減することを掲げています。このうち運輸部門が38%削減、産業部門では37%削減と非常にチャレンジングな数値を目指しています。このため基幹産業である自動車産業は、日本のカーボンニュートラルにおいて非常に大きな役割を担うこととなります。

運輸部門(自動車)のCO2排出量比率(2018年度実績)
(出所)自工会 「資源エネルギー庁説明資料(2021年4月8日)

 運輸部門で自動車が排出するCO2の割合(2018年度)は、乗用車が58%、貨物車が40%となっています。ただ、貨物車の保有台数は2割弱程度であり、走行距離が多く燃費性能の厳しい貨物車は1台あたりのCO2排出量削減の影響が大きいことがわかります。

 とはいえ、貨物車のカーボンニュートラルは乗用車とは事情が異なります。副会長片山正則は「配送用から建築現場の車両まで、商用車は使われ方や大きさが多岐にわたるため、多様性にどう応えていくかという根本的な問題を抱えています。このため何かの技術に特定されるということではなく、いろいろな技術をうまく使うことが必要となります」と貨物車ならではの難しさを説明します。

 また、貨物車は社会のインフラという側面もあります。カーボンニュートラルを進めるためには、運送事業者が事業として成立するためのコスト面での対策が不可欠です。これについて副会長片山は「車体の電動化というだけでは成立しません。架装メーカーなどのビジネスパートナーと業界の枠を超えて選択肢の多様性に取り組まないと実現が難しいので、積極的に進めていきます」と述べています。

用途が多岐にわたる商用車は対応がより難しい

用途が多岐にわたる商用車は対応がより難しい

 二輪車のカーボンニュートラルも必要です。電動二輪車について副会長日髙祥博は「航続距離や充電時間の課題があり、すべての二輪車を電動化するのは非常に難易度が高いです」と実態を説明します。このため「電動化以外のソリューションも視野に入れており、電気だけでなく、水素や合成燃料といった動力源の選択肢にも取り組んでいきます」と述べています。

求められる多様性のある取り組み

 日本国内でのカーボンニュートラルの取り組みは、日本経済にとっても重要な意味を持つことになります。基幹産業である自動車産業は、日本国内で年間約1000万台の自動車を生産しており、このうち半数の500万台を輸出しています。カーボンニュートラルをLCA視点で見れば製造時のCO2も重要な項目となりますので、火力発電の比重が大きい日本国内で生産した自動車は「CO2排出量の大きな自動車」となり、将来的な輸出競争力の低下が懸念されます。特にEVは走行に必要な電力を発電する際のCO2排出量に加えて、大容量電池など製造時には、エンジン車やHVに比べて多くのCO2が排出されます。カーボンニュートラルの観点では、EVは再生可能エネルギーの普及を前提とした自動車ともいえます。

製造時のカーボンニュートラルも積極的に進める(次世代生産技術)

製造時のカーボンニュートラルも積極的に進める(次世代生産技術)

 自動車産業は、国内の就業人口の約1割にあたる約550万人が従事しています。会長の豊田章男は「輸出立国の日本にとって、カーボンニュートラルは雇用問題でもあります」と述べています。日本を取り巻く環境や日本企業が持つ強みを踏まえ、カーボンニュートラルの敵である「炭素」に打ち勝つためには、LCA視点での多様性のある取り組みが求められています。

 

ご参考

 

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