次世代を担う人材を育成 学生フォーミュラ日本大会2024開催

9月9~14日にかけて「学生フォーミュラ日本大会2024自動車技術会主催)」が愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo、愛知県常滑市)で開催されました。この大会は、学生たちが自作のフォーミュラカーを走らせて性能を競い合うもので、車両の設計、製作からドライバーまで全て学生たちが行うのが特徴です。期間中は、プロのレースさながらの激戦が繰り広げられましたが、その舞台裏では、自動車メーカーが次世代の自動車産業を担う学生たちをサポートしていました。

6日間にわたって激戦が繰り広げられた

学生フォーミュラでは、車両性能を競う「動的審査」と、参加校をベンチャー企業と想定し、車両走行性能やデザイン性、販売戦略、コスト管理などを多岐にわたって審査する「静的審査」の2種類があることが特徴です。学生たちは1年をかけて車両開発にあたりますが、「学生だけでは出来ることに限界があり、壁にぶつかることも多いですね」と、ある出場校のリーダーは話します。

そのため、いくつかの自動車メーカーが、学生たちのサポート活動を行っています。

ダイハツ工業は、テストコースに希望大学を招いて試走会を開催しています。今年は10大学約150人が参加しました。テストコースで実際に車両を走行させることで、新しい課題の発見やマシンの調整を学生に行ってもらうことが狙いです。あわせて、自動車の構造(エンジン、CVT、シャシー等)の実物を見ながら、約半日かけて、ダイハツの技術者が学生に講義する勉強会も開いています。車両設計の要となるマシンフレームの製作支援として、技術者が実技指導する機会も用意しています。毎年、参加人数を制限するほど人気の講座で、23年度は関西地区で8大学16人、九州地区では4大学12人が参加し、鉄やアルミの溶接技術を習得しました。学生からは「溶接未経験でも溶接について理解できる素晴らしい内容」との声もあり、好評のようです。

ダイハツの試走会には大勢のチームが参加した

溶接作業時の安全講習にも重きを置く(ダイハツ)

トヨタ自動車は、毎年50名ほどの技術系従業員が試走会・大会運営スタッフとして各種審査、修理等の支援を行っています。加えて、今年は輸送費の負担が特に大きい遠方の大学に対して車両輸送の支援も初めて行いました。また今春からは約15名の学生フォーミュラ経験者でToyota Formula SAE Supporterという支援チームを立ち上げました。大学生との会話の中で、頻繁に出る声はEVへのチャレンジのハードルの高さ。今年後半から、支援チームでEVユニットの調達や技術支援のあり方を検討します。

修理内容相談中(トヨタ)

一方、大学の先生方からは「一部の大学ではモノづくりの現場から離れてしまっている」という嘆きの声を聞いています。デジタル・IT活用はマストですが、産業の基本はモノづくりであることを学生フォーミュラ大会での学生の活躍ぶりを通じて、あらためてご理解いただければ大変うれしく思います。

溶接講習会(トヨタ)

日産自動車もEVクラスに挑戦する学生支援を行っています。製作に携わった30人以上のEVエンジニアが8技術領域にわたるオリジナルテキストを用いた講義を実施しています。講義内容は多岐にわたり、レギュレーションに準拠したきめ細かい指導を行っています。例えば、電気を動力源として動くEVでは、電気の通り道となる回路の制御が車両の性能を左右するため、日産はEV回路制作講座を開催しています。基本を学ぶオンライン講座に加え、「日産リーフ」「日産アリア」といったEV開発に携わったエンジニアによる実践的な回路製作実習も行うことで、学生に理解を深めてもらっています。また、1~2年生向けには、自動車開発の基礎を教える「サポート講座」などを開き、手厚くサポートしています。大会の会場では、車検審査直前に発生した電気系のトラブルを、学生と日産のエンジニアが一緒に解決する「電気修理工房」を開き、レース前の学生たちの駆け込み寺になっていました。

日産の「電気修理工房」はレース前の駆け込み寺に

回路製作実習の様子(日産)

本田技研工業は、学生支援を目的に、定年退職した元社員が集まり「マイスタークラブ」を2001年に立ち上げました。現在15人が在籍しており、技術に裏打ちされた経験や知識を通じて、学生にモノづくりの喜びを伝える活動を行っています。メンバーは、エンジン、足回り、車体フレーム、治具設計、溶接技術等を専門とする各分野のエキスパートで構成されています。栃木県にあるモビリティリゾートもてぎ内の「ドリーム工房」を活動拠点とし、年間を通じて、エンジン整備や溶接技術、サスペンションのアライメント調整などの実技講座を実施しています。

ホンダではベテランエンジニア「マイスタークラブ」が支援にあたる

また、フォーミュラカーづくりに必要な基礎から応用までの座学講座も展開しています。同クラブの関係者は活動を通じて、「チームリーダーが気配りや統率力などのあるチームは、コミュニケーションにより内部の風通しもよく、しっかりチーム運営できている印象がある」と話します。

講座の様子(ホンダ)

ヤマハ発動機は「ヤマハらしいものづくりを提供する」を支援活動の方針に掲げています。実際の活動でも、二輪車に加え、マリンやロボティクスの事業部が学生支援に携わり、様々な視点からアドバイスをしています。技術指導では、「答えではなくヒントを与える」ことで学生のスキル向上につなげています。強度・車体講習やエンジン分解組立講習など独自のプログラムを用意しているほか、エンジン周辺部品の無償提供も行っています。担当者に印象に残っている学校を聞くと、京都工芸繊維大学の名前が挙がりました。「同校は19年の大会で惨敗して、とにかく会場で多くの学生がボロ泣きしていたのが印象的でした。その年の暮れ、その学生たちが立派な支援要望書をもって、当社に支援を依頼してきました。短期間でものすごくしっかり議論したのだろうな、ということが伝わってくるとても熱量のこもったプレゼンでした」。同校は今年、総合優勝3連覇の偉業を達成しており、「どん底で得た経験をバネにした飛躍がとても印象的でしたね」と嬉しそうに語っていました。

真剣な顔でエンジニアの話を聞く学生たち(ヤマハ)

富山大学の学生たちとの交流風景(ヤマハ)

学生フォーミュラは、将来の日本の自動車産業を担う人材育成の役割も果たしています。自動車業界を目指している皆さん、是非挑戦してみてください。

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