- 2024/10/23
- JAMAGAZINE, トラック, バス, 商用車, 撮影のコツ
【撮影のコツ】バスやトラックなどの大型車両、スマホでかっこよく撮るには?
ご自身で運転しているドライバーの皆さんはもちろん、一般の方でも街中や旅先で、カッコいいグラフィックが施されたトラックやバスをスマートフォン(スマホ)を使って写真に残したいと思うケースもあるかと思います。でも、その大きな車体をどう収めたらいいのでしょうか? ただ、シャッターを押しただけではそのカッコよさや美しさは上手に表現できないかもしれません。
そこで【撮影のコツ】シリーズの4回目となる今回は、新旧の大型車両を収蔵する神奈川県藤沢市のいすゞプラザを舞台に、長年、「パリダカ」をはじめ世界のラリーレイドを渡り歩き、美しい写真を撮り続けてきたモータースポーツジャーナリスト・多賀まりおさんに、そんな大型車をスマホで撮影するときに役立つコツやアイデアを教えていただきました。
【講師】日本レース写真家協会 多賀まりお
・プロフィール
1958年、東京都生まれ。フリーランス。トラックディーラー勤務後、大学実験助手やNC工作機械エンジニアなどの職歴を経て、チームACP在籍中の1988年よりダカールラリーの撮影を開始し、現在も継続中。レースシーズン中は毎年、国内を中心にサーキットレースを25戦程度取材。モータースポーツだけでなく、「インターナショナル・トラック・オブ・ザ・イヤー」の賛助会員も務め、自身も大型車の免許を持ち商用車の撮影ならびに技術関連の執筆活動を行っている。
◆スマホについて
レンズ数や機能、処理能力など、機種によってカメラ性能も様々なスマホ。今回の撮影は「iPhone 14 Pro」を使用しました。特殊な機能などは使わずに撮影し、機種を問わずスマホできれいな写真を撮るための基礎知識やテクニックを紹介します。
◆基本はなるべく車体から離れて低めの位置から撮る
トラックやバスなど大型車になると、当然ながらその車体は大きいものです。近年のスマホが装備するカメラにはズームレンズ、あるいは広角レンズも備わっているケースが多いですが、ワイドなレンズで撮ると車体がゆがんでしまいます。一部をクローズアップする手法としては有効ですが、車体の全体を写すのであれば基本はあまりゆがまないようにした方が良いでしょう。そのため、最初から広角を選ぶのではなく、まずは撮影者が車体から離れてみましょう。撮影者が動いてベストポジションを探ることが、より良い写真を入手するための第一歩です。ただし、屋外での撮影では周囲の状況に気を配り、十分に安全に留意して行ってください。
車両撮影ではシチサンと呼ばれる、側面が70%、前面が30%ぐらいの割合(7:3)が車体のカタチが分かりやすく、自然に見えます。
〈車体がゆがまないように撮りたい〉
広角側(ワイドレンズを含む)で撮った例。手前から奥に向かって、車体が全体的にゆがんでしまっているのが分かります。
こちらは同じ車両を車体から極力離れて望遠側で下から見上げて撮った例です。不自然なゆがみもなく、車体のディテールがきれいに表現できました。
今回の撮影では床面にまでスマホの位置を下げて撮っています。望外に床面の反射まできれいに収めることがきました。シャッターを押す前には車体と背景部分からアングルの傾きを確認してください。とりわけ側面が大きく写る場合は水平を意識した方が自然に見えます。
逆に、停まっている車両でも意図的にアングルを傾けることで、迫力や躍動感を演出する手法もあります。これはクルマやバイクでも使えるテクニックですね。
◆トラックやバスの撮影は左アタマが基本
トラック・バスの中には車体に文字やロゴが書いてある(貼ってある)場合も少なくありません。ここで横書きの日本語や英語は左から右に文字が並ぶので、車体進行方向の左側面は文字が車両の前方から後方に向かうため自然に見えます。
一方で右側面は文字が逆向きになり、一部には右側面の文字をあえて右から左に並べたものもあります。これはこれで面白いと思いますが、やはり車体の進行方向が写真の左側となる、いわゆる左アタマが撮影の基本でしょう。
また言うまでもなく、バスの場合は左側面にはドアがありますが、右側面にはないので左右で見え方はかなり違うものとなります。
◆フロントホイールの向きで印象も変わる
同じ位置からの撮影でもステアリングの角度によって印象が変わります。撮影の基本はステアリングが正立した直進状態ですが、ステアリングをホイールが多く(大きく)見える方向に切ると動きが出ます。逆にホイールが見えない方向に切ると、少し不安定な印象になってしまいます。
◆前景・背景の映り込みや太陽の位置に注意
バスやトラックを撮影するシチュエーションとして、車両を自由に移動させて置き場を選ぶことが出来ないことも多いでしょう。その際はアングルを決めたところで周囲に余計なものが映り込んでいないか、車体を隠していないかをチェック。それらが動かせないようなら映り込まないようにアングルをずらして撮影しましょう。
〈前景や背景の障害物を避ける〉
いすゞプラザの館内に展示されたトラックを撮影した例です。車両を記録的に撮ることを考えた場合、前述のシチサン(7:3の角度)で写真に収めたいところ。ただし、上の写真では車両の説明板で前後タイヤの下側が隠れ、写真的にも少しうるさくなっています。こうした場合は撮影者自身が移動して、スマホのモニターを眺めながら最適な撮影位置を探りましょう。下の写真は説明板を避け、全体のフォルムが分かるように撮った例です。
〈逆光の場合、前面だけが影になるアングルは避ける〉
トラック・バスの外形は乗用車に比べて基本的に四角いので、逆光になる場合は前面だけが完全に影になるようなアングルは出来るだけ避けた方が良いでしょう。また、夕方など、太陽の光が低い位置にあって、こちらを向いている状態の場合は撮影位置を低くすることで、車体で太陽を隠せる場合もあります。
今回の取材はあいにくの曇天下であったため作例は示せませんが、上のイラストのように完全な逆光の場合には、周囲の背景はなるべく切り詰めて(少なくして)車体にスマホの露出が適正となる位置を探りたいところです。最近のスマホは撮影後に細かな調整もできますが、それも元の写真がきれいに撮れているほどに仕上がりもよくなります。逆光による影に起因した、車体のディテールの黒ツブレは、ストロボ(フラッシュ)を使うことで改善することもあります。納得いくまで根気よく何カットも撮ることをお勧めします。
〈運転席前方や側面の窓への映り込みも気にしたい〉
運転席や側面に大きな窓を持つトラックやバスの場合、その窓ガラスに思いもしないものが映りこんで、後で眺めてガッカリというケースも少なくありません。良い仕上がりを期待するなら、前景や背景と同様に、ガラス面への映り込みにも気を配りたいところです。
ただし、繰り返しになりますが停車中のトラックやバスを移動することもできません。ここでも撮影者が積極的に動くことで、できるだけ映り込みを単純化できればスッキリとした写真の仕上がりになるでしょう。
◆室内では一番手前に写しこみたいものと一番奥にあるものの中間にピントを合わせる
暗いところではレンズの絞りが開放状態となって被写界深度(ピントがあう距離の範囲のこと。浅いと被写体の手前や奥がぼける。)が浅くなるため、ピントのずれによるボケが目立つ写真となります。例えばインパネで手前にあるステアリングから奥のメーターまで全体が自然に見えるように撮るにはその中間にあるものにピントを合わせるとピントのずれが少ない写真になります。
また、ここでも影となった部分の黒ツブレ対策に、ストロボ(フラッシュ)が有効となります。かつては室内でストロボ(フラッシュ)を使うと影が強く出て不自然な写真となることもありましたが、最新機種のスマホほどに露出制御が高度化して以前のようなことは少なくなりました。状況に余裕があれば、ストロボの使用/不使用での仕上がりを比較して、より良い写真を選びたいところです。
まずは自然光で撮影したバスの運転席まわりの写真がこちらです。撮影時にはスローシャッターとなるケースも多いですから、手ブレには注意が要ります。手すりなどに自身の身体を預けたりスマホを固定して撮影すれば、手ブレのリスクは少なくできます。
こちらはストロボ(フラッシュ)を使った写真例です。スマホ側での露出制御が優秀なこともあって、ハンドルなどの影は不安視したほど強くは出ませんでした。逆に足元のペダルまわりにまで光が回って、運転席まわりのディテールをよく写し出しています。ただし、スマホの機種によりストロボ(フラッシュ)を使った仕上がりはまちまちでしょうから、実際に撮り比べてより良好な仕上がりの写真を選んでください。
◆まとめ
最後に、多賀さんにトラックやバスの写真をスマホで撮影するポイントについて改めて伺ってみました。
「街中で、あるいは観光地などで目にしたトラックやバスが琴線に触れてスマホを向けるケースは、時間的に余裕がない中での撮影が多くなるでしょう。むしろ、ゆっくりと時間をかけて撮影に集中できるケースは少ないかもしれません。
時間や立ち位置、撮影物との距離など制限の多い中での撮影はプロでも厳しいものですが、そんな時こそ落ち着いて。撮影対象はもちろんですが、シャッターを押す前に周囲までをモニターで確認できるようになるだけで、写真の仕上がりは格段にレベルアップします。
本文中にも書きましたが、いくらスマホの加工機能が進化してもやはり大事なのはベースとなる写真です。いろいろなアングルや機能を試すことも楽しみながら、可能な限りシャッターを押せば、ご自身の納得いく仕上がりも増えるはず。普段から自分のスマホに装備されたカメラの機能をいろいろ試しておくのも、使いこなしへの近道となると思います。
最後となりますが、トラックやバスの撮影に限らず屋外では撮影に夢中になって周囲の状況を見落とすことないように、くれぐれもご注意ください。ご自身の安全確保こそが、長く写真を楽しみ続けるための秘訣でもあるはずですから。」
今回はいすゞプラザにお邪魔して作例を撮影しましたが、日野自動車、三菱ふそうにもショールームがあります。また例年、「ジャパントラックショー」や「バステク」といった、トラックやバスを対象とした大型イベントが、そして奇数年の秋には「ジャパンモビリティショー」が開催されますので、ぜひ足を運んでみてくださいね。
◆関連リンク
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