前編:JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024 レポート ~ 未来を語るモビリティ会議

自工会は10月15~18日の間、「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024(ジャパンモビリティショー(JMS)ビズウィーク2024)」を開催しました。初の試みながら会場には多くの方にご来場いただき、企業同士のマッチングも数多く成立しました。その様子を2週にわけてお伝えします。

前編は、オンラインを含めて合計約8,600人が参加したトークセッション「未来モビリティ会議」編です。自工会の正副会長や理事を務める自動車メーカートップに加え、ノーベル賞受賞者やスタートアップ企業のトップ、脳科学者や日本文学研究者など自動車業界の枠を超えたさまざまな分野の専門家がモビリティの将来像を語りました。

開幕初日の「特別セッション」に登壇したのは自工会会長の片山正則(いすゞ自動車 代表取締役会長CEO)、日本自動車部品工業会(以下、部工会) 会長の茅本隆司(日本発条 代表取締役会長 CEO)、独自の与信技術を提供するGlobal Mobility Serviceの中島徳至代表取締役社長CEO、視覚障がい者の移動を支援するLOOVICの山中亨代表取締役です。

4人のトークテーマは「モビリティ社会実現に向けた共創やオープンイノベーションに向けて」です。人口減少による産業や社会への影響が懸念される中、自動車はモビリティへの変革に取り組んでいます。

自工会会長の片山は、2日目以降の議題にもなるカーボンニュートラル、モノづくり、付加価値創造という3つを軸に自工会の取り組みを紹介。パネルディスカッションでは、「(入社したときは個性的だったのに)部長以上になってくると均質化してくる。それは(長い間の経験によって)効率を重視しているためそうなってしまう。イノベーションを起こしていくためには、均質ではなく、異質を作っていく必要がある」と、スタートアップとの共創の重要性を指摘しました。また、部工会の茅本会長も「モビリティになっても自動車が重要な産業であり続けたい。ただ、自分たちだけで競争力を維持することはできない」と述べ、スタートアップ企業の新しい技術や知識を積極的に取り込んでいきたいという姿勢を示しました。

両名が言うように、スタートアップはモビリティ社会への変革をけん引する可能性を秘めたさまざまな技術やアイデアを持っています。グローバルモビリティサービスの中島社長は「世界にはクルマを買いたくても買えない人がいる。良いものを作っても買ってもらう仕組みがなければ普及しない」と説明。ルービックの山中代表は「移動するきっかけであるコンテンツとツールを提供し、社会的包摂を実現していく」と、モビリティ社会の将来像と自社の貢献領域を語りました。

自動車メーカー・部品メーカー・スタートアップとの共創の重要性を議論

2日目のテーマは「『日本式』カーボンニュートラル実現戦略とは?」です。自工会理事の毛籠勝弘(マツダ代表取締役社長兼CEO)、加藤隆雄(三菱自動車工業取締役代表執行役社長兼最高経営責任者)と、環境・サステナビリティコンサルタントの松沢優希さんや国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん、旭化成名誉フェローの吉野彰さんが議論を交わしました。

まずは足元の電気自動車(EV)市場についてモーリーさんは「電気代の高騰や補助金の終了などでプライシングの問題に直面している」と指摘。これに対して理事の毛籠は「EVの普及の時間軸が少し長くなっているのは事実。ただ、技術革新は必ず起こるため、将来のソリューションは変わる」と回答しました。

自工会が提唱するカーボンニュートラル達成への「マルチパスウェイ」戦略は地域のエネルギーやニーズによって最適なパワートレーンの選択肢を提供する考え方です。吉野さんは「モビリティの議論も当然必要だが、発電所のエネルギーをどれだけ減らすという話になる」と語りました。理事の加藤は「製造工程や流通過程まで含めて二酸化炭素(CO2)排出量をミニマム化する」と自動車産業全体で環境負荷低減に取り組む意思を示しました。

また、この回では自動車メーカーにとって難しい議論も提示されました。松沢さんは「既存車のリマニュファクチャリングは電動車よりも環境負荷低減効果が高いという研究データもある」と指摘。吉野さんも「シェアリングという概念は地球環境に大きく貢献する。その時、車の絶対数は必ず減る。自動車メーカーは『かなわん』となるかもしれないが、その議論の先に新しいビジネスも生まれる」と語りました。

パワートレインに加え、サーキュラーエコノミーやシェアリングにまで議論は発展

3日目は「モノづくり大国日本の、モビリティ製造最前線」をテーマとし、自工会理事の大崎篤(SUBARU代表取締役社長CEO)、井上雅宏(ダイハツ工業代表取締役社長)、丸山浩二(UDトラックス代表取締役社長)と、グローバルモビリティサービスの中島徳至代表取締役社長CEO、MaaS Tech Japanの日髙洋祐代表取締役CEO、Trustedのファリザ・アビドヴァ共同創業者CEOが登壇しました。

モビリティのテクノロジー進化について、理事の大崎は「ソフトウエアやAI(人工知能)の進歩は大きい。ただ、自動車産業は人やモノを物理的に運ぶので、ハードウエアとしての役割が大きい。日本は世界でも(ものづくりで)リードしてきたので、AIを駆使できればさらにモビリティのポテンシャルをあげることができる」と述べ、アイサイトやAIを活用した技術開発について紹介しました。

これを受け、理事の井上も自社の取り組みを紹介。「ダイハツは先進運転支援システムでも良品廉価なハードウエアを提供する役割だと思っている」と語りました。

ソフトウエアの進化とともに変化するサプライチェーンについては、理事の丸山が「商用車はカスタマイズが多く、サプライチェーンも多岐にわたるため、データを集める・貯める・加工する・可視化するというステップを一貫性のあるシステム環境で実行することが重要。加えて、AIをいかに活用し、最適なサプライチェーンを作るかに今後取り組まないといけない」と話しました。

ソフトウエアやAIの活用でハードウエアがどう進化していくかなどを議論した

JMSビズウィーク最終日は、「モビリティは課題先進国・日本の未来を変えるか?」をテーマに、自工会副会長の鈴木俊宏(スズキ代表取締役社長)、慶応義塾大学医学部の宮田裕章教授、脳科学者の茂木健一郎氏、日本文学研究者で早稲田大学のロバート・キャンベル特命教授が議論しました。

移動空間の変化について副会長の鈴木は「車の運転を楽しむ空間と、個室として動く空間の2つある。ただ後者はエンターテインメントを車で楽しむということだが、それなら家で楽しむのと一緒。移動空間をどう発展させていくか。操る楽しみの部分をもっとやっていきたい」と話しました。この意見に宮田教授は「グーグルマップは効率の良い道を示してきたが、『寄り道すればおいしい店がある』といった情報で移動が広がる。(人や場所との)つながりやコミュニティが新たなモビリティ(やサービス)を生むのでは」と自身の考えを示しました。

鈴木は自工会で取り組んでいる「7つの課題」も紹介しました。「7つの課題は日本の課題でもある。データを活用し無駄を排除して新たな価値を創造したり、マルチパスウェイを進める中での部品や資源の安定調達など、(自動車を含めた)エネルギー分野で日本が主導権を取ることが重要。自動車業界を中心に全産業で協力してやれることは今やろう、そして日本で誰一人取り残さず、地盤沈下を防ぎ、日本が世界をリードしていけるようにしたい」と語りました。

鈴木副会長は7つの課題に取り組み、国際競争力で日本がリードする重要性などを語った

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