- 2026/04/17
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ミュージアムの歩き方 ①いすゞプラザ
自動車メーカーには、社の歴史や技術、最新の製品などを紹介するミュージアムがあるのをご存じでしょうか。各社が工夫を凝らした個性的な施設について、担当者が見どころを熱く語るシリーズをスタートします。第1回は「いすゞプラザ」を訪ねました。
※紹介する展示やイベントは取材当時のものになります。
いすゞプラザは、いすゞ自動車藤沢工場(神奈川県藤沢市)に隣接しています。工場の総敷地面積は約102万平方メートルで、全景は空からでないと見渡せないほど広大です。一方、いすゞプラザの敷地面積は5000平方メートル弱です。小田急電鉄と相模鉄道、横浜市営地下鉄の3路線が交差する湘南台駅(藤沢市)の東口にいすゞプラザの送迎バスが1時間に2本発着しており、10分ほどでプラザに到着します。

エントランスから「いすゞのくるまづくり」エリアへ
真っ白でシンプルながらモダンなデザインで、大型車も展示可能な巨大な建物です。3階建てのうち展示スペースは1、2階で、エントランスではいすゞ自動車が最初に製造したトラック「ウーズレーCP型」が出迎えてくれます。同社の前身である東京石川島造船所が1924(大正13)年、英ウーズレー社と提携して国産化した1.5トン積みのトラックで、昭和初期の日本で成長し始めた国産車産業のパイオニア的な役割を果たしたと言われています。

まずは2階の「いすゞのくるまづくり」エリアから。
このエリアは、「くるまを体験する」コーナーがたくさんあり、ゲーム性の高い展示物が並んでいます。
「ドライブシミュレーター」は大型トラックの運転を体験できるゲームで、安全運転やエコドライブの観点から運転後にS~Dのランク付けがされます。乗用車と違って高い位置から見た視界は新鮮で、免許を持っている大人でもなかなかうまく操作(運転)できません。大型車の運転の難しさとドライバーの運転技術の高さを実感することができます。

また、「整備士にチャレンジ」ゲームでは、大型車の整備の基本を学ぶことができます。タイヤの溝の深さや空気圧が正常かどうかを実際にチェックし、クイズに答えることで安全点検の必要性を示すゲームで、正常値と実物の差を実感できるようになっています。子どもたちは、擦り減ったタイヤや空気圧の足りないタイヤは整備が必要であることを学びます。

塗装体験コーナーでは、スプレーガンを用いたトラック塗装工程を体験できます。まんべんなく塗装するのはなかなか難しく、1カ所に集中すると塗料が垂れたりムラになったりするリアルなゲームです。

実物の20分の1で作られたトラック製造過程を紹介する模型は、実に精密にできています。実際の工場の製造ラインをリアルに再現し、大人も子どもも目を見張る出来栄えです。

ディーゼルエンジンの模型は、モニターを左右に動かすと画像上でエンジンが透視され、内部をみることができ、エンジンの仕組みや、数えきれない数の部品によって一つのエンジンが作られていることに驚かされる展示です。

「いすゞの歴史」エリア
続いて、同じ2階の「いすゞの歴史」エリアへ移動します。
最初に出合うのは、昭和初期に乗合バスとして活躍した1932年製の「スミダM型バス」です。「スミダ」は、いすゞ自動車の前身である東京石川島造船所が、純国産車の製造に踏み出した際に名付けた車名で、隅田川のほとりにあった工場から生まれる国産車の発展への願いが込められています。関東大震災からの復興期、自動車の重要性が高まる中で、「スミダ」は国産車の成長をけん引する存在でした。

「いすゞの歴史」エリアには他に、小型トラック「エルフ」の初代(1959年製)や、戦後に独自開発した乗用車の第1号であり、日本初のディーゼル乗用車でもある「ベレル」(1964年製)が並んでいます。また、北米に販売拠点がなかったいすゞ自動車がゼネラルモーターズ(GM社)と提携してアメリカで販売した「シボレーLUV」(1972年製)も展示されています。これは、国内で販売していた「ファスター」の輸出仕様車でした。

あざやかな黄色でスタイリッシュなセダンは「ジェミニ」(1974年製)。GM社と協力して開発した世界最初のグローバルカ―で、車名は英語で「ふたご」を意味し、両社の協力の証しとして名付けられたそうです。
他にも、1937年にいすゞ自動車が誕生する前からの年表があり、その長い歴史をいすゞが製造した商用車と乗用車などのミニチュア展示で知ることができます。

期間限定の企画展でひときわ目を引いたのが、アッソ・ディ・フィオーリ(1979年製)。市販化された「ピアッツァ」のプロトタイプモデルです。世界的に有名なイタルデザイン社のジウジアーロ氏のデザインで、ボンネットにはサインが書かれていました。

「『運ぶ』を支えるいすゞ」エリア
1階に移動すると100以上の国や地域で働くトラックやバスなどが展示されています。
目を引くのは、大型トラックの「ギガ」です。すぐれた省燃費性能や先進の安全機能、快適な運転環境を備え、輸送の効率化と車両の安定稼働を追求した、いすゞの技術の集大成ともいえる存在です。運転席に座り、地上2メートルを超える高さからの視界を体感できます。

同じエリアには、2025年10~11月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」で世界初公開された次世代燃料電池(FC)路線バス「エルガFCV」が展示されています。充填した水素と空気中の酸素とを化学反応させ、これによって充電した電力でモーターを動かす仕組みの燃料電池自動車です。子どもたちからは押すと「ピンポン」と鳴る降車ボタンも人気を集めていました。

また、「SKW 3 1/2トン(さんかにぶんのいっとん)トラック」が展示されていました。おもに陸上自衛隊で使われている防衛専用車両で、災害時には被災地で人や物資の輸送などで活躍します。荷台には木製のベンチが設置され、運転席は装飾を排した重厚なつくりです。

施設の担当者にインタビュー
いすゞプラザは、「企業ミュージアム」と「コミュニティ施設」の二つの顔を持っています。施設の成り立ちや目的について、企業市民活動推進グループのグループリーダー、藤本美愛さんに聞きました。

情報・ブランド発信と交流拠点の場
いすゞプラザは、いすゞ自動車の創立80周年記念事業の一環として企画され、2017年4月に開館しました。「部長クラスから若手までのプロジェクトチームが発足し、どのような施設にするかを企画しました。いすゞ自動車の歴史を伝えるだけでなく、地元・藤沢市に貢献する、地域の交流拠点にするというコンセプトが作られました」。その結果、いすゞプラザ開設の狙いは、①地域交流拠点になる、②いすゞのものづくりと歴史を紹介する、③商用車の役割を知ってもらう、という三つに整理されました。
実際にいすゞプラザは、歴史の紹介や貴重な車両の展示、商用車の役割や開発から製造・販売までの工程を体験できるだけでなく、ものづくりワークショップなどを開催して地域住民と交流するコミュニティエリアを設けています。
コロナ禍の影響でやむなく入場を制限した時期もありましたが、2026年1月には来場者累計50万人を達成しました。これを記念して「いすゞプラザ来館者50万人突破記念セレモニー」が開かれ、横浜市から訪れた4人家族に記念品が贈られました。
藤本さんは現在の来場者数について、「毎月、約5000~6000人が訪れています。また、近隣小学校の社会科見学は直近の1年で約100校にのぼります。」と話しています。

ものづくり体験ワークショップ
地域の交流拠点としてのいすゞプラザでは、独創的なものづくり体験ワークショップが開かれています。その内容について藤本さんは、「クルマをつくる技術を、子どもだけでなく大人にも楽しみながら知ってもらえるようなワークショップです」と紹介します。
例えば、『クレイモデル教室』では、新しいクルマを作る時に、デザイナーが描いたイラストを基に特殊な粘土(クレイ)を使って実物大の模型を作る『クレイモデラー』の仕事を、実際に使われているクレイで自由に好きな作品を作ってもらうことで体験することができます。大人も童心に帰って一緒に楽しめそうです。

また『鋳物(いもの)教室』では、金属を型に流し込んで作る「鋳物」の技術を体験することができます。藤本さんは「トラックやバスの主要なエンジン部品は、この鋳物技術で作られています。実際に金属を溶かして成形する、貴重な体験ができます」と紹介します。
この他にも、神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるミニコンサートや、交通安全をテーマにしたイベントなど、地域への貢献を意識した催しが行われています。

いすゞ自動車が描く「運ぶ」の進化
自動車メーカーとしての未来像は、「いすゞ自動車がクルマを売るということは、世界の物流を支えるソリューションを提供することです。これまでは『運ぶを支える』ことに取り組んできましたが、これからは『運ぶを創造する』メーカーになっていきます。例えば従来から提供しているディーゼル車に加えて電気自動車、燃料電池車、天然ガス車など多様な選択肢を提供することによってカーボンニュートラルに取り組んでいます」と話します。
いすゞプラザの1階に最先端の商用車であるエルガFCVを展示しているのも、そんな思いが込められているのでしょう。
「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」にコンセプトカーとして展示した「VCCC Vertical Core Cycle Concept)」についても、「商用車の未来を示した一つの提案で、次世代の『運ぶ』の概念を示しています」と目を輝かせました。


