ミュージアムの歩き方 ③スズキ歴史館

自動車メーカーが社の歴史や技術、最新の製品などを展示する博物館(ミュージアム)を紹介するシリーズ。第3回は「スズキ歴史館」です。スズキ本社がある浜松市を訪ねました。

※記事中の展示やイベントは取材当時のもの

JR浜松駅から東海道本線で1駅の高塚駅で下車し、時折畑があるのどかな住宅地を歩いて約10分のところにスズキの本社があります。道路をはさんで向かい側にある建物がスズキの企業ミュージアム「スズキ歴史館」(SUZUKI PLAZA)です。

充実したショップ

入口の扉をくぐると受付があり、その後ろに広い店舗「S-MALLスズキ歴史館ショップ」があります。「スモール(小さな車)」と「スズキのモール(お店)」の意味がこめられ、2025年10月にリニューアルされたスズキのインターネット通販サイト「S-MALL」で販売している商品が並んでいます。スズキの祖業である織機の木組みをイメージして採用した地元浜松産の天竜材をふんだんに使っており、天竜ヒノキの棚には織物の前掛けやバッグなどのアパレル品や、バイクや自動車のフィギュア、オリジナルの湯飲みやレトルトカレーなどが並ぶほか、浜松の物産を紹介するコーナーも設けられています。

ショップにある鈴木社長のアクリルスタンド

ずらりと並んだキーホルダーなどの小物「SUZUKI COLLECTION」の中に、鈴木俊宏社長の写真がプリントされたアクリルスタンドを見つけました。JAPAN MOBILITY SHOW 2023で参考出品された「SUZU-RIDE」(スズライド)に新ユニフォーム姿で乗っている写真です。企業のショップの商品としては珍しいですが、鈴木社長が会社の顔として広く認識され、社内外での人気の高さがうかがえます。

デザインルーム

開発・生産ゾーン

施設の2階は「クルマができるまで」を学ぶコースとなっており、開発ゾーンから見学しました。多くの小学生が社会科見学に訪れるため、子ども向けに分かりやすく展示されています。膨大な数のデザイン画からいくつかが選ばれ、「クレイモデル」と呼ばれる1/5~1/3サイズの粘土模型が作られ、さらにデザインが絞り込まれると実物大の模型が作られます。見学に来た子どもたちは、自動車のデザインが粘土で作られていることに驚くそうです。

3Dシアター入口

生産ゾーンに進むと、3Dシアター「ファクトリーアドベンチャー」があります。3Dメガネをかけ、溶接、プレスなどの製造工程を紹介する約10分間の映像は、立体的でリアルなうえ、椅子が振動するのでとても臨場感があります。実際に工場見学に行ったような印象で、見学では入れないようなプレス機の中まで映されます。テーマパークさながらのシアターで、子どもたちに人気があります。

樹脂成形コーナー

自動車生産の技術を解説

シアターを出ると、製造工程を見学するコーナーです。

まず、部品を製造する技術を紹介するエリア。エンジンのシリンダーブロックなど複雑な形をした部品を作るため溶かした金属を型に流し込んで形にする「鋳造(ルビ=ちゅう、ぞう)」、歯車など強い力がかかる部品生産で金属をたたいて形を作る「鍛造(ルビ=たん、ぞう)」、細かい歯車などのため金属を削って磨く「機械加工」、バンパーやグリルなどプラスチック製品の原料を溶かして液状にして金型に流す「樹脂成形」の順で紹介されています。

組み立てライン

スタンプラリー

本物で見せる組み立てライン

組み立てラインの展示は実物大です。1台の車を作るためには約3万点もの部品が必要で、車のフレームにエンジンやタイヤなどが組み込まれていく様子を工場見学さながらのリアルな迫力で見ることができます。

組み立てラインの先にはスズキの国内工場と各工場で生産している製品が紹介されています。子ども向けに工場をめぐるスタンプラリーがあり、見学にきた小学生に人気があるそうです。

遠州の「ものづくり」を支えた偉人たち

海外拠点や地域を紹介

スズキは世界各国・地域に進出しており、海外にも多くの拠点があります。最大拠点であるインドやハンガリー、パキスタン、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなど、それぞれの国について大型地球ディスプレイによって生活や文化が紹介されています。

遠州コーナーには、遠州出身の代表的な偉人が紹介されているほか、浜松周辺の産業や文化、浜松まつりのジオラマなどが展示されています。

創業時の織機

創業から二輪、四輪開発まで

3階は、創業時から現在まで、スズキが歩んだ歴史の展示コーナーです。創業当時から変わらないスズキの“ものづくり”への情熱を感じることができます。

初代の鈴木道雄社長が発明した織機に始まり、戦後の復興期にその技術を活用して自動車産業へ進出して成長してきた歴史を、展示されている二輪車や四輪車などそれぞれの時代の「製品」が語ってくれます。

歴代自動車

歴史を語る二輪車、四輪車

1952年の自転車用補助エンジン「パワーフリー」や「コレダCO」、初の四輪車「スズライトSS」に始まり、高度経済成長期のマイカー時代に販売したオートバイの数々や軽トラック「スズライト キャリイL20」や「フロンテ360」など。1979年に47万円という価格で社会を驚かせた「アルト」のコーナーでは、当時の時代を振り返ることができます。

アルト

「アルト47万円」誕生

女性の社会進出の流れを受けて1970年代に各メーカーは、いわゆる「2台目」となる軽自動車に力を入れました。市場調査の結果、中古車の価格帯でのニーズをつかみました。徹底的なコストダウンに加え、当時軽乗用車に課せられていた15.5%の物品税に目を付けたのです。ボディーは3ドアハッチバックでありながらリアシートを簡素にし、商用車登録ができるフロントシート優先の「軽ボンネットバン」とすることで課税を回避したのです。

アルトの宣伝のキャッチコピーは「アルト47万円」。イメージカラーを赤にして宣伝には、その時代を代表する女性タレントや俳優を起用しました。その結果、爆発的ヒットとなり、社の飛躍に貢献しました。

施設の担当者にインタビュー

スズキの歴史を未来に伝承するために作られた「スズキ歴史館」。スズキ歴史館には職場から応募・選出され、教育を受けた約40人の社員が「スズキ歴史館アンバサダー」として登録されていて、小学生の社会科見学を通じて子どもたちに自動車づくりの“工夫”や“楽しさ”をアテンドすることをはじめ、社員や取引先に対して、スズキの“歴史”や“モノづくりへの想い”を伝える活動を行っています。

その中の4人(引馬智美さん、森茂樹さん、市川里々奈さん、渋谷豪人さん)にスズキ歴史館について語っていただきました。

40人のアンバサダーを配置

スズキ歴史館は、社内外にスズキファンを増やすために作られました。織機を作ることから始まったスズキには、どん底にあった時期もあること、どんな思いでここまで成長し、どんな方向に進もうとしているのかを伝承しています。そして、社員や地元の方々に愛着を持ってほしい、次世代の子どもたちに楽しく学んでほしいという思いから「アンバサダー」という制度が誕生しました。

歴代オートバイ

小学5年生の見学コースに

スズキ歴史館は2009年に開館し、2024年9月に来場者が100万人を突破、2025年度には年間10万人を超えました。歴代のオートバイが展示されているのでバイクファンの聖地となっており、インドや欧州、オーストラリアからの来場者も見られます。家族で来たお父さんやお母さんは、子どものころの車を懐かしんでいます。

また、小学5年生の社会科見学を引き受けており、2学期にあたる9~12月に約150校から約1万人の5年生が来場します。3Dシアターやロボットがドアを運ぶような組み立てエリアが人気で、県外の小学校からも見学に訪れます。

ミニ織機

エンジン解体体験

ものづくりイベントや祭りに一躍

社会科見学だけでなく、地域貢献として小学生を対象に夏休みや冬休み、春休みにものづくりのイベントを実施しています。ミニ織機で織物を作ったりエンジンの分解を体験したり、車の不要品や海洋プラスチックを使ってキーホルダーやペンケースを作ったりします。

本社や各工場の敷地で開く秋祭りでは、オートバイにちなんで仮面ライダーや「戦隊もの」のショーの開催、社員による露店や製品の展示などを行っています。

鈴木道雄銅像

ぶれない「スズキのものづくり」精神

「お客様が欲しがっているものなら、どんなことをしてでも応えろ。頑張ればできるもんだ。」この言葉は、鈴木道雄・初代社長が新製品を開発する時の口癖でした。この精神は今も社員に浸透しており、「使っていただくお客様の立場になって製品を作る」という考え方につながっています。「スズキのものづくり」はこの思いに始まり、これからも変わりません。織機の鉄部分の加工技術をオートバイのエンジンや車体作りに生かし、今の業態に成長したのですから。

 

関連リンク

ミュージアムの歩き方 アーカイブ- JAMA BLOG 一般社団法人日本自動車工業会