「商用車の謎」シリーズ 用途ステッカーと3連ランプ

トラックの運転席や助手席のドア周りに、四角く囲まれた「自家用」「一般」などと表記されていた車両を見かけたことはありませんか。また最近では見なくなりましたが、大型トラックのキャビンの上に緑色のランプが3つ並んでいたのを覚えている方もいるでしょう。普段は乗用車しか乗らない人にとって、トラックには「謎」がたくさんありますね。「商用車の謎」を探る企画、その第1弾は側面ステッカーと車体上部の表示灯です。

【ステッカーの謎】
まず「自家用」ステッカーです。これは、トラックの使用用途の分類を表す表示です。自家用貨物自動車のことで、自社の従業員が運転して従業員や自社の荷物を輸送するトラックを指しています。ナンバープレートは白ナンバー、軽自動車は黄色ナンバーをつけており、当然ながら有償での輸送業務(営業行為)を行うことはできません。

ナンバープレートによる自家用と事業用の識別は、1951年に制定された「道路運送法」の施行規則第65条において、「自家用自動車は『自家用』と自動車の外側に表示しなければならない」と、明記されています。運用は1952年に始まりましたが、85年の省令改正で自家用貨物に関しては添付義務が除外されました。また、当初は事業用のナンバープレートは黄色地に黒文字となっていましたが、現在の緑地に白文字の形式となったのは10年後の1962年です。

一方で、緑ナンバーをつける事業用貨物自動車は、「運行」「特定」「一般」の3種類に分類されています。「運行」は、定期的に決まったルートを走るトラックを表します。あらかじめ出発地を管轄する陸運支局に、運行管理者資格を保持している者が運行経路の届け出をしなければなりません。不特定多数の荷主から集荷して配送する「特別積合せ」輸送も、原則としてルートが一定なら「運行」となります。

「特定」という表示もあります。特定貨物自動車運送事業に使用されるトラックを意味していて、荷主が1社に限られているケースで表示します。特定の事業者の荷物の大半を、独占的に扱う契約をすることで事業許可を受ける場合に用いられます。
しかし帰り便が空荷になるなどして輸送効率が悪く、不特定多数の荷主から集荷し全国に配送する「特別積合せ(特積み)」が主流になりました。また、規制緩和もされたことから、こうした表示の中では最も少数派となりました。

「一般」という区分は、一般貨物自動車運送事業で使うトラックであり、営業所の管轄区域内の集配業務などに従事する車両のことです。以前は一般貨物自動車運送事業の参入には高いハードルがあり、新規参入する事業者は、まずは特定貨物自動車運送事業からスタートしたという経緯があります。しかし、規制緩和により「一般」の表示義務はなくなりました。


軽トラックも同様に自家用と事業用の届け出区分があり、自家用は黄色ナンバー、事業用は黒ナンバーとなります。自家用は、農家、商店、建設業などの事業者が多く、逆に事業用は「軽貨物」と記され宅配便業者などが中心です。

宅配便業者に多い黒ナンバーの軽商用車

このほか鉄道で輸送されるコンテナなどの貨物を、出荷先から貨物列車の発着駅まで、到着駅から配達先まで輸送する車両には「通運」が表示されます。航空便の集配などに使用する車両には「航空」が表示されます。

また用途が限定されている車両に表示する「限定」もありました。「限定」は競走馬輸送車やコンクリートミキサー、福祉タクシー、霊柩車などが対象でしたが、霊柩車によっては「霊柩」と表示している場合もありました。乗合バスでは、空港のリムジンバスの様に空港利用者に限定したサービスを行う車両には「限定」と表示しており、用途によって税金や保険が変わっています。しかし、いずれも省令改正で表示は廃止されました。

【頭のランプの謎】

大型トラックは、暗くてもその大きな車体の存在を周囲に知らせる必要があるため、側面にいくつかのランプを灯していますが、かつてはキャビン(運転席)の上に、緑色に光る3つのランプがありました。いまや見かけなくなって久しいキャビン上のランプにはどんな意味があったのでしょうか。

2001年まで義務付けられていた速度表示灯

この3連ランプは、速度表示灯または速度表示装置と呼ばれ、かつては大型車に設置が義務付けられていました。その名の通り、前方から走ってくる大型トラックのスピードを周囲のクルマに知らせ、安全性の注意喚起を行う狙いがありました。

3つのランプは、対向車側から見て右側、左側、真ん中の順で点灯します。右だけが点灯していれば40km/h未満、左右の点灯は40km/h以上60km/h未満、3つ全てが点灯していれば60km/h以上を意味します。

道路運送車両法で装着義務が規定されたのは1967年です。当時、接触事故が多かった大型トラックのみが対象になりました。大型車への装備義務は2001年に廃止され、装備は任意になりました。その背景には、事業者の経済的負担を減らすよう、トラックの業界団体などが義務の撤廃を求めていたことがあり、トラックメーカー各社もこれを取り外しました。

この速度表示灯の装着義務がなくなった2年後の2003年、大型トラックには90km/hで作動するスピードリミッターの装着が義務付けられました。

かつてはトラックが絡む交通事故が多く、こうしたさまざまな規制が導入されてきましたが、安全面での技術の進歩で年々交通事故は減少傾向をたどっています。

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