- 2025/03/07
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自動車諸元表の読み方 ②動力編
カタログデータは略号や数字の羅列ですが、その中にはクルマのさまざまな性質や性格などが秘められている「情報の宝庫」です。クルマの選択に迷った時には、これらのデータを参考に各車両を比較し、あなたにもっとも適したクルマの選択に役立ててください。「自動車諸元表の読み方」シリーズ、第2回は「動力編」です。
〈エンジンの仕組み〉
エンジンの仕組みを簡単に説明すると、①吸気弁を開き、ピストンの下降によって燃料と空気をシリンダー内に吸入、②弁を閉めてピストンの上昇によって圧縮、③点火プラグの高圧電流の火花で火をつけて燃焼(爆発)させ、その圧力によってピストンは押し下げられ、コネクティングロッド(コンロッド)を介してクランクシャフトで回転力に変換して出力されます。④その後排気弁を開き、ピストンが再び上昇することで燃焼後のガスがシリンダーから排出されて1つの周期(サイクル)が完結します。このように吸入・圧縮・燃焼(爆発)・排気という4つの行程で1周期が構成されるものを4サイクル(ストローク)エンジンと呼びます。
なお、4輪車の一部に見られるロータリーエンジンは上下運動のピストンの代わりに3角おむすび型のローターを繭型のシリンダー内で回転させるもので、ローターの持つ3つの面とシリンダーで囲まれた空間を使って上記の4行程がそれぞれ進行していく仕組みです。ロータリーエンジンはシリンダー種類の項にRotaryと表記しています。
〈エンジンの種類〉
複数のシリンダーをどのように並べて配置するかを示したのがシリンダー種類で、表記上Lは直列、VはV型、Hはホリゾンタルの意で水平対向型。これに続く数字はシリンダーの数(=気筒数)です。4サイクルの場合、クランクシャフト2回転に1度しか燃焼、即ち力を出す行程が行われないため、シリンダーがひとつだけの単気筒では回転ムラや振動・騒音が大きくなります。しかし、複数のシリンダーを行程のタイミングをずらして組み合わせることによって振動・騒音を打ち消すことが出来ます。シリンダー(気筒)数は多くなるほど回転ムラが小さくなる傾向ですが、構造が複雑になるため高価になります。
シリンダーを一列に並べた「直列」は2気筒から6気筒に多く見られ、3気筒や5気筒も存在しますが、8気筒以上ではピストンからの力を受けるクランクシャフトが長くなって捩れやすくなるため、今ではほとんど見られません。通常はシリンダーを垂直にした状態でクルマに搭載されますが、斜めにしてエンジンの高さを抑えたもの、また、バスの一部には横倒しにして床下に積んだものもあります。
「V型」は直列エンジンを2つ組み合わせた格好で、多気筒化してもエンジン全長を短く出来ます。Vの角度は振動吸収のバランスから6気筒、10気筒、12気筒では60度が、8気筒では90度が一般的ですが、搭載スペースの関係などからこれと異なる角度のものもあります。また、水平対向型はVの角度を180度にしたものです。なお、部品を共用化するために同じ設計のシリンダー(燃焼室)の組み合わせによる直列4気筒/6気筒やV型6気筒/8気筒エンジンも見られます。
〈ボア&ストローク〉
シリンダーの内部はどうなっているのでしょう。諸元表には「内径×行程」または「ボア×ストローク」との表記があります。内径(ボア)はピストンが往復運動をするシリンダー内側の直径を示した数字で、行程(ストローク)はピストンが往復運動をする距離を示しています。
内径の数字よりも行程の数字のほうが大きいタイプのエンジンをロングストローク型エンジンと呼びます。ロングストローク型は一般的に回転する力(トルク)を出しやすいエンジンとされ、実用エンジンに多く採用されています。逆に内径の数字のほうが大きいタイプを、ショートストローク型と呼びます。ストロークが短いほど回転数を高めやすくなるので、高回転型のスポーティなエンジンにショートストローク型が多くなります。
ただ、内径の数字が大きくなることは、エンジンの全長が長くなり、エンジンの小型化にはショートストローク型が必ずしもよいとはいえません。内径と行程の数字がまったく同じものは、スクエア型と呼ばれ、出力とトルクのバランスがよいエンジンとされています。最近の例では、トヨタ自動車の「86」とSUBARU「BRZ」のエンジンである「FA20型」は、なんとボアもストロークも86mmとスクエア型です。1シリンダー当たりの排気量は、ボアの半径の二乗×円周率×ストロークの長さなので、FA20型の場合は1シリンダー当たりの排気量(約500cc)となり、4気筒なので総排気量は2,000ccということになります。
〈圧縮比〉
ピストンが下がることでシリンダー内に取り込まれた混合気は、ピストンが上がることで燃焼室の容積まで圧縮されます。この燃焼室とシリンダーの容積の比を圧縮比といいます。諸元表に「圧縮比12.0」とあれば、燃焼室の容積はシリンダーの1/12ということになります。
日本の乗用車の多くはおおむね9.0~13.0、大型のトラック、ダンプ、バスで16.0~18.0の範囲に分布していますが、一般的には圧縮比が高いほど燃焼効率が良くなり、出力が上がりやすくなります。ただし圧縮比が高くなりすぎると、ノッキング等の異常燃焼が起こりやすくなるので、その車に合わせた最適解を技術者は模索します。
〈燃料の種類〉
ガソリンを燃料とするガソリンエンジンに対し、軽油を燃料とするディーゼルエンジンは同じ4サイクルでも点火プラグではなく、高い圧縮によって高温になった空気に燃料を噴射することで自然発火させて燃焼させます。これはガソリンよりも低い温度で発火する軽油の特性を活かしたもので、ガソリンで同じことをしても火はつきません。このほか、LPG、CNGを燃料とするエンジンも火花点火式で、専用の燃料供給装置を備えたものです。LPGは液化石油ガス(=LPガス)で、石油のほか、天然ガスからも生産されています。また、CNGは家庭用の都市ガス(12A、13A)と同じ天然ガスを20Mpa(200気圧)程度に圧縮したものです。どちらも炭素と水素の化合物ですが、炭素の比率は軽油に比べて小さいため、燃焼による排ガス中の炭酸ガス排出量がそれらよりも少ないという特徴を持っています。
〈燃費表記〉
自動車を購入しようとするユーザーにとって、これを真っ先に見るというデータの一つに「燃費」があります。そのクルマ・バイク・トラックを走らせるのに、どのくらいの燃料が必要かという指標で、燃料消費率の略称です。時代とともに燃費の試験方法は進化しており、かつ乗用車や大型商用車、そして二輪車でも異なります。現在の主流を紹介します。
・WLTCモード燃費
WLTCモード燃費は、乗用車および商用車(うち、GVW3.5トン以下の軽量車)を対象にした国際的な試験法で、「市街地モード」「郊外モード」「高速道路モード」といった3つの走行モードで構成されています。現行の日本独自のJC08モードに代わり、新たに2017年から導入され、それに伴い燃費表示も、WLTCモードに基づく燃費(「WLTCモード」)に加え、構成される3つの走行モード毎の燃費が表示されることになりました。WLTCモードはJC08モードよりも高い速度・加速度が含まれるなど、相対的に条件が厳しくなるため、同モードの燃費はJC08モードと同等かやや低めの数値となる傾向にあります。2018年よりWLTCモード燃費値の表示が義務化されています。
・JC08モード燃費
JC08モードは、乗用車および商用車(うち、GVW3.5トン以下の軽量車)を対象にした、実際の走行データに基づいた日本独自の試験法です。2011年4月より使われてきましたが、現在は、より直近の使用実態を反映した国際的な試験法であるWLTCモード燃費の表示に置き換えが進められています。
【GVW3.5トン超のトラック・バス、商用車について】
・JH15重量車モード燃費
GVW3.5t超のトラック・バスの燃費値であり、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)の改正により2006年4月1日に施行されました。加減速のある都市内走行モード(JE05モード)および80km/hの一定速度による都市間走行モードの2つを計測した上で、車種に応じた割合で算出します。重量車の多様なバリエーションを合理的に評価するため、この計測は実際に走行するのではなく、シミュレーション法という試験方法を使って行われるのが特徴です。
・JH25モード燃費
2025年度を目標年度とした新しい燃費基準を策定するにあたり、より走行実態を反映した燃費値を算定するために、従来の測定方法に対し、燃費マップの測定点数の追加、空気抵抗/転がり抵抗の実測値の反映によるエネルギー損失の精緻化、走行実態に応じた都市間走行比率、積載・乗車率の更新等を盛り込んだ改正が行われました。
この新たな測定方法により測定された燃費をJH25モード燃費と呼びます。
・WMTCモード燃費
四輪車のWLTCモードと同じく世界統一基準に基づいた二輪車の燃費測定方法です。国土交通省から法令として定められたものではなく、国内二輪メーカー4社の自主的な取り組みとして導入され、モード走行試験で排出した排出ガスの計測結果から燃費を算出します。四輪車のWLTCモードなどと同じく実際の使用実態に近い方法で計算されるのが特徴です。
・定地走行燃費(国土交通省届出値)
定地走行燃費とは、車両総重量の状態で無風状態の平坦な舗装路を一定のスピードを保って走った場合の燃費で、単位のkm/lは1リットルの燃料で何km走れるかを示すものです。自動車メーカーが国土交通省に、新車の型式指定または認定を受ける際の届出値です。
・燃費基準
省エネおよび地球温暖化対策の推進のため、乗用車、貨物車、バスには省エネ法に基づく燃費基準が設定されています。現在は乗用車(2030年度)、重量車(2025年度)、小型貨物車(2022年度)の企業平均燃費目標値が設定されています。これら目標達成のため、自動車メーカーは燃費改善技術の開発や次世代自動車の投入に努めています。2030年度の乗用車平均燃費目標値は2016年度の実績値と比較すると32.4%の改善、重量貨物車(3.5t超)では2015年度目標値に対して2025年度目標値は13.4%の改善、小型貨物車では2012年度の実績値と比較し26.1%の改善がなされることになります。
・「エコカー減税」
排出ガス性能および環境性能に優れた自動車に対して、それらの性能に応じて、自動車重量税を免税・軽減する制度です。令和5年度税制改正において、2026年4月30日まで自動車重量税のエコカー減税は延長されました。なお、自動車重量税が免税となる新車は、要件によって初回継続検査も免税となるものもあります。乗用車の場合、軽減対象となる排出ガス基準・燃費基準などは、2025年5月1日に引き上げとなります。
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