レース場の特装車「トランポ」 マシン本体や機材を輸送!搬入現場に潜入‼

週末にサーキットに現れる巨大なトレーラー、多数のトレーラーが整然と並ぶピット。スーパーGTのあの華やかな舞台は、レースウイークの数日前から始まる緻密な計画と、プロフェッショナルたちの〝技〟によってつくられています。

モータースポーツファンの方々にとっては、競技車両の搬入・搬出作業を見るのも一つの楽しみでしょう。特にモビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)の搬入経路にあるトンネルは、トレーラーにとって〝難所〟で、ファンの撮影スポットとして人気を集めています。

今回は、スーパーGTの全ラウンドにおいて、大型特装車「トランスポーター」(トランポ)の搬入出管理やピット割りを統括されている、スーパーGT プロモーター(GTA)派遣役員北一博さんに、普段は知ることができないパドック設営の裏側、近年モータースポーツ界が直面している物流の課題などについて詳しくお話をうかがいました。

インタビューに答える北さん

■45チームのトランポ、巨大パズルを組む
スーパーGTにはGT500とGT300を合わせて約45チームが参戦しており、パドックには大型トラックやトレーラーが集結します。この膨大な車両を、限られたスペースにいかに配置するか。それは毎回変化する〝巨大なパズル〟のような作業です。北さんによると、ピット割りは単なる順番決めではないそうです。

「基本的にはGT500クラスのメーカー(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車など)のポイントランキング等に応じて、大会ごとに配置がローテーションします。例えば、開幕戦で1番ピットだったメーカーが、第2戦では一番後ろに回るといった具合ですね」

人と比べても巨大な車両

さらに複雑なのがGT300クラスの配置です。GT500の配置が決まった後、エンジンの供給関係やメンテナンスガレージのつながり、さらにはメーカーのブランドイメージを考慮して、GT500のチームと関連性の深いGT300チームを隣接させるなどの調整も行われます。

「サーキットごとにピットの広さも形も違います。事前に各メーカーから寸法図面をもらい、『このチームから何メートル離してテントを置く』といった詳細な図面を1〜2日で書き上げます」。この緻密な設計図こそが、機能的で美しいパドックの基盤となっているのです。

■「見せるスポーツ」としてのパドック美学
近年のスーパーGTのパドックは、フォーミュラ・ワン(F1)や海外レースのように洗練されています。かつては「雨風がしのげて、燃料ホースが通ればいい」という簡素な設営だったそうですが、現在は意識が大きく変わりました。

「やはり『見てもらうスポーツ』ですから。ピット裏のホスピタリティテント(専用ラウンド)、ピット内の装飾、給油タワーの電飾に至るまで、各チームが見栄えを意識して機材を投入しています」

北さんら運営サイドも、トレーラーをセンチ単位で整列させることにこだわっています。

「2階のピットビルからパドックを見下ろした時、工具や車両が整然と並んでいるのが見えますよね。それが『ちゃんとした仕事をしている』というプロフェッショナルな印象につながるんです」

機材の大型化も進んでおり、現在は居住性を高めるために車高が上に伸びる〝2階建て〟のトレーラーや機材が増えているそうです。

2階建ての巨大トランポ

■モータースポーツ物流と「2024年問題」
華やかな舞台の裏で、深刻な課題となっているのが物流の「2024年問題」です。トラックドライバーの労働時間規制により、従来のスケジュール維持が困難になっています。

「昔は金曜日に車両やパーツの搬入をするために、夜通し走って…ということもありましたが、今は一定の時間走行したら休息を取る休息時間を8時間空けなければならない等の規定があります。そのため、多くのチームが木曜日からサーキットに入り始めているんです」

機材の増加と労働時間の規定。この〝板挟み〟の中で、以前よりもスケジュール調整が難しくなってきているといいます。

スーパーGT運営会社「GTアソシエイション」(GTA)も「金曜搬入・土日開催というコンパクトな日程では、設営時間が足りなくなってきています。今後は木曜搬入を前提とするなど、スケジュールの見直しが必要な時期に来ています」(関係者)と危機感を募らせています。

パドック裏に並ぶトランポ

■最難関?モビリティリゾートもてぎの「トンネル」
「あそこのカーブとトンネルは、ドライバーにとっては設計ミスと思えるほどの『難所』ですね(笑)。でも、熟練のトランポドライバーたちは見事にクリアしていきます。その姿をファンの方々が撮影されているので、ドライバーの緊張感も相当なものですよ」

レース終了後の搬出はさらに過酷です。夜間の暗がりの中、スタッフたちが撤収作業を行います。

狭いトンネルに入るトランポ

「搬入は順番に入れますが、搬出は一斉に動き出します。もてぎの場合、決勝後はコース上に一度トレーラーを並べ、そこからピットへ戻して積み込みを行います。ファンの方にも見て楽しんでいただきたい反面、安全確保のために早めの退去をお願いせざるを得ないのが現状です」

〝技〟でトンネルから抜け出る

■週末には「オフィシャル」の顔も
北さんの仕事は、搬入が終われば完了ではありません。レースウイーク中は「テクニカル(技術監査)」として、ピットレーン上のオフィシャルも務めています。「作業違反がないか、火災時の対応は適切かなどを監視・ジャッジする役割です。地元のオフィシャルと連携しながら、公平なレース運営を支えています」

サーキットに到着してから撤収まで、一瞬の気も抜けないプロフェッショナルの仕事。私たちが週末に目にする整然とした美しいサーキットの風景は、彼らの緻密な計算と情熱によって守られています。

多数のトランポが整然と並ぶ

〈プロフィール〉
きた・かずひろ スーパーGT プロモーター(GTA)派遣役員/パドック管理・テクニカル担当。30代でモータースポーツの世界に入り、タイヤメーカーの物流業務などを経て現職。現在はスーパーGT全戦において、トランスポーターの誘導、パドックレイアウトの作成、レース中のピット監視業務などを統括。

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