ロゴの変遷

6月5日は「ロゴの日」です。ロ(6)ゴ(5)と読む語呂合わせで、企業などが広報活動の一環として、ロゴデザインの効果をアピールすることを目的に一般社団法人 日本記念日協会 により2011年に制定されました。自動車メーカー各社の車両のフロントグリルやステアリングなどに貼られている「ブランドロゴ」もよく知られています。車を運転している時でも、歩行中に車体を見る時でも、意識的に目が向くはずです。近年、ブランドロゴを「企業ロゴ」と明確に区別する会社が多くなってきていますが、今回は各社の商品のヘッドマークやエンブレムに採用されているブランドロゴの今昔を比較し、その意味や由来を紹介します。

【いすゞ自動車】

いすゞ自動車では、ロゴが1934年から車両に用いられ、「いすゞ」の文字を12のさざなみで囲っていました。さざなみの数を12にしたのは、干支をはじめとして、広く基本的な数字とされているためです。1974年から米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携し、日本から世界へ飛躍を遂げようと、ISUZUマークを設定。企業カラーの赤色は太陽の炎をテーマに全従業員の「情熱と前進」を表したものです。

ISUZUエンブレムは、1991年から「世界中のお客様に心から満足していただける商品とサービスを創造する」という企業理念をシンボリックに表現。文字をシンプルでモダンなデザインによってマーク化したものです。

【カワサキモータース】

カワサキモータースは1878年、東京・築地に川崎築地造船所を開設したのが起源です。「川」の字をモチーフとしたシンボルの歴史が長く、創業者である川崎正蔵氏が自ら考案し、所有船で使用していました。

二輪車事業は1953年に二輪車用小型エンジン「KB-1」を発売したのが始まりです。当初はエンジン製造にとどまっていましたが、1960年に二輪車の一貫生産を開始、車両には「Kawasaki」などと打ち出されたブランドマークが採用されるようになりました。2021年、川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニーは分離独立して「カワサキモータース」として生まれ変わりました。

【スズキ】

スズキの社名は創業者である鈴木道雄氏の姓が由来です。エンブレムはSUZUKIの「S」を表してデザイン化したもので、伝統を守り続ける変わらないエンブレムとして長く使われています。

創業時は鈴木式織機製作所でしたが、木工織機から金属製自動織機の生産にかけて精密機器のノウハウを得た後、自動車産業へ進出。四輪車では1955年の「スズライト」から現在に至るまでSをかたどったエンブレムが装着されています。

二輪車では1959年に登場した「コレダST6A」が「S」エンブレムを初めて装着したモデルです。このモデルは、五角形型のタンクやサドルなどを流れるように配置したデザインが高く評価され、そのタンクのメッキ部分にエンブレムが配置されました。

【SUBARU(スバル)】

航空機メーカーの中島飛行機を源流に持つスバル。四輪車事業には1958年「スバル360」で参入しました。

エンブレムはSUBARUの前身である富士重工業が中島飛行機の流れをくむ5社によって設立されたことから、プレアデス星団(スバル)がモチーフになりました。

なお、富士重工業は中島飛行機設立からちょうど100年を経た2017年、社名をSUBARUに変更しました。

【ダイハツ工業】

ダイハツ工業の社名は「大阪にある発動機製造会社」の略称である「大発(ダイハツ)」と呼ばれていたことが由来です。

創業当時は、名前の通り発動機(エンジン)メーカーでしたが、1930年に初めて車両「三輪自動車 HA型」を製作しました。その車両の名前も社名と同じ「ダイハツ号」でした。昔は車種ごとにブランドエンブレムが異なっていたそうで、写真は1966年に発売した軽乗用車「フェロー」に付けたブランドエンブレムです。

現在は、1993年にグローバル ブランディングの考えからデザインが統一され、DAIHATSUの頭文字「D」を楕円で囲むデザインを使用しています。

【トヨタ自動車】

(写真提供:トヨタ自動車株式会社)

創業初期(1935年)の商標は、「G1型トラック」と「AA型乗用車」が豊田(とよだ)自動織機製作所の自動車部で開発されたため「TOYODA」としていました。

1989年に会社創立50周年を記念し、「トヨタマーク&ロゴタイプ」を新たに設定。トヨタブランドを示すマークとして、トヨタ車の先進性と信頼性を象徴するエンブレムが初代「セルシオ」から車両に装着されました。エンブレムは内側の小さな楕円2つと外側の楕円1つで構成されています。内側の2つの楕円はユーザーとトヨタの心を、背後の空間はトヨタの先進技術のグローバルな広がりと未来・宇宙にかける無限の可能性を表しています。

【日産自動車】

日産自動車のロゴは、創業者・鮎川義介氏の「至誠天日を貫く(強い信念があれば、その想いは太陽をも貫き、必ず道は開ける)」という思いを表してきました。日産の源流でもある「ダットサン」は、創業時から海外などで使用していたブランドでした。赤い日の丸と太陽をベースに天空をモチーフにしたコバルトブルーを入れ、真ん中に横書きで「DATSUN」と書かれていました。

現行の「NISSAN」エンブレムや「NOTE」といった車名、「e-POWER」などの仕様を表すエンブレムは、車両一つ一つに合わせてデザインされています。例えば、EV「アリア」のフロントグリルに装着された「NISSAN」のエンブレムは新デザインと発光機能を組み合わせ、文字とリングが光ります。

【日野自動車】

日野自動車は1917年、日本初の純国産トラック「TGE-A型トラック」の試作に成功、同社の原点となっています。 戦後はディーゼルエンジンを搭載したトラック、高度成長期には大量輸送を担うトラック・バスを開発し、旧ロゴマークには「Hino」を採用してきました。

会社創立50周年を機に、企業理念とロゴを刷新。現行ロゴは1994年にデザインされ、HINOの「H」を象徴するとともに、地平線から昇る太陽(日の出)を表現し、挑戦し続ける企業としての会社の活力と発展性を表現しています。矢印(⇔)にも見えることから、「安全な行き帰りを願う」メーカー積年の願いも込められているそうです。現在販売している車両すべてに採用されています。

【本田技研工業】

本田技研工業は設立前年の1947年、自社開発製品の第一号(自転車用補助エンジン)の生産を始め、そのタンクに付いたビジュアル・アイデンティティーが製品に貼られた初めてのロゴで、発案者は創業者の本田宗一郎氏といわれています。

四輪車のエンブレムはHONDAの頭文字「H」に統一してデザイン化している一方、二輪車では翼の羽根をイメージした専用のものを採用しているのが有名です。初代エンブレムは1963年、量産型四輪車の生産開始に合わせて登場しました。

四輪車では、その後もHの形状が丸くなったり、細長くなったりするなど変化を続けています 。二輪車は、宗一郎氏が「世界に羽ばたく」との意気込みを示すためにウイング入りロゴを貼ったのが始まりとされ、1948年にはギリシャ神話に登場する「勝利の女神ニケ」が描かれたロゴもありました。

【マツダ】

マツダでは1960年、社名のアルファベットの頭文字である小文字「m」をモチーフにしたユニークなエンブレムが同社初の乗用車「R360クーペ」に採用されました。1984年から「マツダ」に改称される前の社名は「東洋工業」でしたが、マツダ初のロゴは1934年に3輪トラック「マツダ号」に使用されたものです。

1997年からは大文字「M」を楕円で囲ったエンブレムを使用。会社の象徴として、決意を未来に向けて羽ばたかせる形としています。2015年1月には28年ぶりとなるエンブレム変更を発表、スマートフォンなどの画面上でも見やすいよう平面のシンプルなデザインとしました。

【三菱自動車工業】

三菱自動車工業は1970年、三菱重工業から自動車事業部門を分離する形で設立され、エンブレムは旧三菱財閥創業者である岩崎家の家紋「三階菱」と土佐藩藩主である山内家の家紋「三つ柏」に由来しています。

企業ロゴでもあるスリーダイヤは、三菱系企業の事業多角化による複数のグループ会社設立に伴い、「三菱」の社名冠称、商標使用が広がり、1918年には日本初の量産乗用車「三菱A型」のラジエーターグリルにも装着されました。

【三菱ふそうトラック・バス】

三菱ふそうトラック・バスの「FUSO」ブランドの起源は、1932年に当時の三菱造船・神戸造船所で製造されたガソリンバスB46型乗合自動車が誕生した際、愛称を所内募集して、見事当選したのが「ふそう」の名前でした。「ふそう(扶桑)」とは、古くより中国の言葉で「東海日出る国に生じる神木」を指し、日本の異称としても使われました。実在する扶桑の木は扶桑花(ぶっそうげ)と呼ばれ、一般にはハイビスカスの名で知られています。

2003年に三菱自動車工業株式会社から商用車部門が分離し、「三菱ふそうトラック・バス株式会社」としてダイムラー・クライスラー(当時) の一員として新たなスタートを切りました。現在のエンブレムは三菱自動車と同じく、スリーダイヤとなっています。

【ヤマハ発動機】

ヤマハ発動機は、創立から70周年を迎えるのを機に2025年1月、企業ロゴのデザインを変更しました。立体的な音叉(おんさ)マークの部分を2次元にしてスマートフォンなどデジタル上で見やすくしています。ロゴを変えるのは27年ぶりです。

ヤマハ(前身は日本楽器製造株式会社)とヤマハ発動機は同じヤマハブランドを共用しています。

シンボルマークとなる「音叉」マークは、楽器の調律に使われる音叉(チューニング・フォーク)を3本組み合わせたもので、1897年に設立された日本楽器製造株式会社(現ヤマハ)のシンボルマークを継承し、ヤマハ発動機では1955年の創立時から使われています。3本の音叉の組み合わせには当初から「製造・販売・技術の連携によってたくましく世界にはばたいていこう」という意志が込められていました。今日ではさらに「お客様」「社会」「個人」の意味をも付加して、お客様の期待を超える価値の創造、社会的な責任の遂行、仕事をする自分に誇りがもてる企業風土の実現という三つの経営理念を表しています。

【UDトラックス】

UDトラックスの「UD」は、Uniflow scavenging Diesel engine の略で、単流掃気方式2サイクルディーゼルエンジンを意味します。1950年代当時、いろいろなタイプのエンジンを研究しており、他と区別するために設計図面に「UD」の判を押していたものが後の商品名となりました。またUDエンジンを搭載していることを表示し、UDの名を広く知ってもらうため車両の両側に直径10cmほどの赤い円形にUDと白く抜いたマークを付けるようになりました。

2010年2月には国際的な商標となったUDを用い社名をUDトラックスに変更。併せてCIの刷新を行いました。現在のブランドマークにおけるUとDの間には究極の信頼を貫きお客様のビジネスを成功に導く一本の道がイメージされています。

「企業ロゴ」がアイデンティティーや戦略的方向性を表現している〝顔〟なのに対し、「ブランドロゴ(エンブレム)」はまさしく各車両の〝顔〟といえるでしょう。時代に伴い微妙に変更されたり全面刷新されたりして、車両とともに進化を遂げているブランドロゴ。先日のJAMAブログ記事「社名の由来と歴史」と合わせ、ロゴの変遷を知れば、カーライフがさらに楽しめそうです。

関連リンク

2025/02/07 自動車会社 その社名の由来と歴史① 乗用車メーカー編

2025/02/12 自動車会社 その社名の由来と歴史② 二輪車メーカー編

2025/02/19 自動車会社 その社名の由来と歴史③ 大型車メーカー編